「隣のレジが開いたから私が先ね」列の途中に入った女性がさらに移ろうとした瞬間、店員が伝えた一言
列の途中に入ってきた買い物かご
三十代の僕が、休日の昼にドラッグストアへ行ったときのことだ。
買ったのは風邪薬とマスクとスポーツドリンク。会計を待つ列には、僕を入れて六人ほどが並んでいた。
開いているレジは一台だけで、列の先頭では年配の男性が小銭入れを手にしながら、自分の番を待っていた。
そこへ、横の通路から買い物かごを提げた女性がやってきた。
女性は列の後ろへ向かうのかと思ったが、そのまま僕の目の前に入ると、足元にかごを置いた。
一瞬、見間違いかと思った。
「あの、すみません。列、後ろまで続いてますよ」
僕が声をかけると、女性は少しだけ振り返った。
「え?でも私、これだけだから」
「いや、みんな並んでるので…」
「すぐ終わるから、大丈夫でしょ」
まるで大したことではないという口調だった。
「でも…」
そこまで言ったものの、女性はもう前を向いている。後ろにも人が並んでいたので、ここで言い合いになるのも嫌で、僕はそれ以上言えなかった。
隣のレジが開くと、女性はすぐに動いた
少しして、近くで品出しをしていた店員さんが列の様子を見ながら戻ってきた。
そして隣のレジに入り、「休止中」の札を外した。
その瞬間、僕の前に割り込んでいた女性が、さっと買い物かごを持ち上げた。
「あ、隣開いた。じゃあ私が先ね」
そう言って、新しく開いたレジへ向かおうとする。
僕が思わず女性を見ると、女性は少しむっとした顔で言った。
「だって今開いたんでしょ?だったら私が先ね」
後ろに並んでいた人たちも黙ったまま、その様子を見ていた。
すると、新しいレジに入った店員さんが女性に声をかけた。
「申し訳ありません。こちらも、今お並びの列の先頭のお客さまからご案内します」
女性の足が止まった。
「え?でも、こっちは今空いたんですよね?」
「はい。ただ、皆さま順番にお待ちいただいていますので、先頭の方からご案内します」
店員さんは声を荒らげることなく、列の先頭へ手を向けた。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
先頭にいた年配の男性は少し戸惑ったように女性を見たあと、小銭入れを手に新しく開いたレジへ向かった。
女性は納得できない様子で立っていたが、店員さんがもう一度「順番にご案内しますので」と伝えると、小さく息を吐いた。
「…分かりました」
そして買い物かごを持ち、列の最後尾へ歩いていった。
二台のレジが動き始めると、列は少しずつ短くなっていった。
やがて僕も隣のレジへ案内され、風邪薬の入ったかごを台に置いた。
「お待たせしました」
先ほどの店員さんが、何事もなかったように声をかけてくれた。
「いえ…さっきはありがとうございました」
そう伝えると、店員さんは少しだけ笑った。
「お待たせしてしまって、すみません」
店員さんは女性を責めることも、強い口調で注意することもなかった。ただ、待っていた人の順番を変えなかった。その落ち着いた対応に、僕はようやくほっとした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














