「もしかして、待ってたんですか?」昼休みに個人的な質問を重ねた同僚。退勤後の駐輪場で返ってきた答え
空いている席はいくらでもあった
三十代の僕には、顔と名前が一致する程度の同僚がいる。朝や帰りに会えば会釈をするくらいで、同じ仕事を担当したこともない。向こうのことは、ほとんど何も知らなかった。
その日の昼休み、僕は休憩室の窓際で一人、パンを食べていた。空いている席はいくらでもあったのに、その同僚は隣の椅子を引いた。
「ここ、いいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
しばらくして、同僚がふいに聞いてきた。
「休日は何してるんですか?」
「寝てるか、買い物に行くくらいですよ」
「へえ、そうなんですね」
そこで話は終わると思った。ところが少し間を置いて、また同じことを聞かれた。
「休日は何してるんですか?」
僕は思わず相手の顔を見た。
「えっと……さっき言った通りです。特に何もしてないですよ」
「ああ、そっか。そうでしたね」
同僚は笑っていたが、聞き間違えたのか、それとも別の答えを期待していたのか、僕には分からなかった。
そのあとも「家族って何人なんですか?」と聞かれた。
「そのへんは、まあ…普通ですよ」
曖昧に返したのに、少しして「何人なんです?」と重ねられた。
「すみません。あんまり職場でそういう話、しないので」
そう言って笑うと、同僚は「あ、そうですよね」と引き下がった。
僕も「そろそろ戻ります」と席を立ったが、なぜ急にそこまで個人的なことを知りたがるのか、少し引っかかった。
帰ろうとすると、またそこにいた
その週、仕事を終えて駐輪場へ下りると、出入口の近くにその同僚が立っていた。
僕に気づくと、顔を上げた。
「あ、お疲れさまです。今帰りですか?」
「はい。お疲れさまです」
その日は偶然だと思った。
ところが翌日も、その翌日も、退勤して駐輪場へ向かうと同僚がいた。定時で出た日も、少し遅くなった日も同じだった。
三日目、僕を見るなり同僚がスマートフォンをしまった。
「あ、やっと来た」
その言葉に、僕は足を止めた。
「……もしかして、待ってたんですか?」
同僚は少し困ったように笑った。
「まあ……せっかくだから、一緒に帰れたらと思って」
「すみません。僕、一人で帰ります」
思ったよりはっきりした声が出た。
同僚は一瞬黙り、それから「ああ、そうですよね。ごめんなさい」と小さくうなずいた。
これで終わると思っていた。
けれど次の日の夜、帰る前に廊下の窓から駐輪場を見ると、出入口のそばにまた見覚えのある姿があった。
同僚は、それ以上何かをしてくるわけではない。職場ですれ違えば、以前と同じように「お疲れさまです」と会釈をしてくる。
僕も同じように返している。
それでもあの日以来、退勤時間が近づくと、駐輪場へ下りる前に窓から外を確認するようになった。
今夜もそこにいるのではないか。そう考えてしまう自分がいる。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














