「ええ?ハサミくらいでケチくさいなあ」僕のハサミを勝手に使う先輩。何度も消える僕の私物を、課長に相談した数日後
いつも隣の島で見つかる黒いハサミ
僕は三十代の会社員で、机の右端にいつも自分のハサミを置いている。文房具店で選んだ一本で、封筒を開けたり資料を切りそろえたりするときによく使っていた。
ところが、そのハサミがたびたび見当たらなくなるようになった。
探すと、決まって隣の島にいる先輩の机にある。使い終わってもそのままで、僕の机に戻ってくることはなかった。
ある日の夕方、急ぎで郵送物をまとめていると、またハサミがない。
見ると、先輩のキーボードの横に黒い持ち手が見えた。
「先輩、それ僕のハサミなんですけど…」
「ああ、これ?ちょっと借りてた」
先輩は何でもないことのように差し出してきた。
「使うのはいいんですけど、ひと言だけ声かけてもらえませんか。必要なときに探すことが多くて」
すると先輩は笑った。
「ええ?ハサミくらいでケチくさいなあ」
「いや、貸したくないわけじゃないんです。使ったあと戻してもらえれば、それで……」
それでも先輩は近くの同僚を見て、もう一度笑った。
「そんな気にする?ハサミくらいでケチくさいよな」
同僚は困った顔で、「まあ…本人の物ですからね」と小さく返した。
僕はそれ以上言えず、ハサミを持って席へ戻った。
課長に相談した数日後の朝礼
たかがハサミと思われるかもしれない。でも、必要なときに毎回探すのは地味に困る。
その日の終業前、僕は課長に事情を話した。
「大ごとにしたいわけじゃないんです。ただ、何度お願いしても戻ってこなくて…」
課長は少し考えてから、「分かった。誰か一人の話にせず、みんなに伝えるよ」と答えた。
数日後の朝礼で、課長が「文房具のことで一つ」と切り出した。
「人の机にある物を使うときは、ひと言声をかけてください。借りた物は、使い終わったら元の場所へ。共用の物は棚の備品箱を使ってください」
誰の名前も出さなかった。先輩も黙って聞いていた。
朝礼のあと、課長は棚の端にあった備品箱を、手に取りやすい位置へ移した。
その日の昼になっても、僕の黒いハサミは机の右端にあった。
夕方、先輩が何かを切ろうとして僕の机のほうを見た。一瞬目が合ったが、そのまま棚へ向かい、備品箱から共用のハサミを取り出した。
先輩から謝罪があったわけではない。それでも、その日を境に僕のハサミが勝手に持ち出されることはなくなった。
机の右端にいつもの黒い持ち手がある。それだけで、余計な探し物をせず仕事に集中できるようになった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














