「名刺の出し方なら、鏡の前で100回練習しました」自信満々の営業新人。だが、初訪問の取引先で差し出した最悪な一枚
「100回練習しました」と胸を張った僕
職場の飲み会で「あの話、もう一回してよ」と言われると、今でも少し恥ずかしくなります。
営業の仕事に就いたばかりのころ、初めて取引先へあいさつに行った日の出来事です。
当時の僕は、名刺交換さえうまくできれば、第一印象はばっちりだと思っていました。
訪問の前夜には、鏡の前で何度も練習。
名刺入れから一枚取り出し、両手で差し出す動作を、腕がだるくなるまで繰り返しました。
翌日、取引先へ向かう途中、同行する40代の先輩が声をかけてきました。
「説明は俺がするから。お前は最初のあいさつ、頼むぞ」
「はい!任せてください。あいさつは完ぺきです!」
「おお、ずいぶん自信あるな」
「名刺の出し方なら、鏡の前で100回練習しました」
僕が胸を張ると、先輩は「それは頼もしいな」と笑いました。
ただ、このとき僕は大事なことを忘れていたのです。
上着の内ポケットには、名刺入れと薄い財布が重なって入っていました。
練習中は名刺入れしか入れていなかったため、取り違える可能性など考えてもいませんでした。
取引先の部長に差し出した、まさかの一枚
応接室に通され、先輩と並んで待っていると、50代くらいの部長さんが入ってきました。
部長さんは向かいの席に腰を下ろし、にこやかに名刺を差し出してくれました。
いよいよ僕の出番です。
練習どおり背筋を伸ばし、内ポケットに手を入れました。
そして、取り出したカードをよく確かめないまま、両手で差し出したのです。
「はじめまして!本日はよろしくお願いいたします!」
我ながら、声も姿勢も完ぺきでした。
ところが、部長さんは受け取ったカードをじっと見つめています。
「あれ…?」
何かおかしいと思った瞬間、隣の先輩が小声でささやきました。
「おい…それ、ポイントカードだぞ」
「えっ?」
部長さんの手元を見ると、そこにあったのは僕がいつも行く店のポイントカード。
名刺入れのつもりで、財布のほうからカードを取り出してしまっていたのです。
一瞬で顔が熱くなりました。
「す、すみません!間違えました!」
僕は慌てて頭を下げました。
「大変失礼しました!今、ちゃんとした名刺を…!」
すると部長さんは、ポイントカードを裏返してスタンプ欄を眺め、真面目な顔でこう言ったのです。
「これ、100円で1ポイント貯まるんですか。うちと取引していただくと、何ポイントつきますかね」
その瞬間、先輩が吹き出しました。
部長さんも我慢できなかったようで、肩を揺らして笑い始めました。
僕は恥ずかしくてたまりませんでしたが、部長さんの冗談のおかげで、緊張していた空気が一気に和らぎました。
今度こそ名刺入れを開き、中身をしっかり確認してから名刺を渡しました。
その後の商談も、思っていた以上に和やかに進みました。
帰りの駅のホームで、先輩が缶コーヒーを渡してくれました。
「いやあ、お前、やってくれたな」
「もう…本当に勘弁してください」
「でも、完ぺきだったな、つかみは」
そう言って笑う先輩に、僕も苦笑いするしかありませんでした。
それ以来、僕は毎朝、名刺入れの中身を確認するようになりました。
ちなみに、あの部長さんは今でも僕に会うたび、笑顔でこう聞いてきます。
「ポイント、貯まりましたか」
あの日の失敗は、どうやら一生忘れてもらえそうにありません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














