「ちゃんと見てましたってば」子育て支援センターで動画に夢中だった母親。だが、スタッフの質問に言葉を失った理由
見守りの決まりがあるプレイルームで
平日の昼、私は子どもを連れて、地域の子育て支援センターへ遊びに行きました。
プレイルームには1歳から3歳くらいの子どもたちが集まり、保護者がそばで見守るのが決まりになっています。
その日、部屋のすみのベンチに、ひとりの母親が座っていました。イヤホンをつけて携帯電話で動画を見ているようで、ときどき肩を揺らして笑っています。
一緒に来た2歳くらいの男の子は、少し離れた遊具のコーナーにいました。
しばらくすると、その男の子が、ほかの子の乗っている三輪車のハンドルを両手でつかみ、引っぱり始めました。
乗っていた子は驚いたように泣き出し、近くにいた母親が慌てて抱き寄せました。
「これは今、お友だちが使ってるからね。順番にしようね」
別の母親が男の子の前にしゃがんで声をかけると、男の子はこくんとうなずいて手を離しました。
ところが今度は走り出し、段差でつまずきそうになります。すぐそばにいた別の母親が、とっさに体を支えました。
私は思わずベンチのほうを見ました。しかし、男の子の母親は相変わらず画面に夢中で、顔を上げる様子もありません。
周囲の保護者たちが何度も対応しているのに、本人が気づいていないように見えて、なんとも落ち着かない気持ちになりました。
部屋の奥では、エプロン姿のスタッフの女性もその様子を見ていました。
それからも母親はほとんど顔を上げず、動画を見続けている時間は1時間近くになっていました。
出入口で、スタッフが重ねた質問
帰りぎわ、男の子を連れた母親が出入口へ向かうと、スタッフの女性が声をかけました。
「お子さんから目を離さないようにお願いしますね」
母親は携帯電話を見たまま、片方のイヤホンを指で浮かせました。
「はいはい、ちゃんと見てましたってば」
そう言って立ち去ろうとした母親に、スタッフはもう一度声をかけました。
「そうでしたか。では、さっき三輪車のところで、ほかのお子さんが泣いていたことには気づきましたか?」
「え?」
母親は初めてスタッフの顔を見ました。
「お子さんが三輪車のハンドルを引っぱったときです」
「あ……」
母親は口を開きかけましたが、それ以上の言葉が出てきません。イヤホンに触れていた手も、そのまま止まっていました。
帰り支度をしていたほかの保護者たちも、静かにそのやり取りを見ていました。
スタッフは声を荒らげることなく、続けました。
「ここは、保護者の方にそばで見守っていただく場所なんです。次からはお願いしますね」
母親は耳まで赤くなり、何も言い返さずに男の子の手を引いて出ていきました。
ドアが閉まると、三輪車のところで泣いていた子の母親が、スタッフに小さく頭を下げました。
私はようやく肩の力が抜け、足もとの自分の子どもを抱き上げました。
周りの人が助けてくれるのはありがたいことです。でも、それを最初から当てにしていいわけではありません。
スタッフが最後まで落ち着いた口調で伝えてくれたことに、少しほっとした出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














