「あなた、責任取れるの?」家電店で点検を急かした男性。だが、上司が身分証を求めると、急に態度が変わった瞬間
点検に来たという男
家電の店で働いていたころのことです。
ある日の昼、私は掃除機売り場で品出しをしていました。
すると、作業着のような上着を着た男性が、まっすぐこちらに歩いてきました。
「どうも。点検の者です」
突然のことで戸惑っていると、男性は少し顔を近づけ、声を落としました。
「最近、この辺で電波泥棒っていうのが出てるらしくてね。店のWi-Fiなんかも、勝手に使われることがあるんですよ」
「電波泥棒、ですか?」
聞き慣れない言葉に首をかしげる私をよそに、男性は売り場の奥にある事務所の扉へ目を向けました。
「そうそう。だから、お店の機器もちょっと見せてもらえます?ついでに点検しておきますから」
しかし、私はそんな点検の予定を聞いていませんでした。
そもそも、この男性がどこの会社の人なのかも分かりません。
「すみません。確認してきますので、少しお待ちいただけますか?」
すると男性は、あからさまに嫌そうな顔をしました。
「そんなの待ってられないよ。こっちも忙しいんだから」
そう言って腕時計を見たかと思うと、今度は私に身を乗り出してきました。
「待ってる間に盗まれたらどうするの?あなた、責任取れるの?」
声が大きくなり、レジに並んでいたお客さんたちもこちらを振り返ります。
「それは……でも、確認しないと……」
男性の勢いに圧倒され、言葉が続きません。私は制服の裾をぎゅっと握りしめていました。
上司が求めた身分証
そのとき、男性の声に気づいた上司が、売り場の向こうから歩いてきました。
「どうされました?」
男性は上司に向かって、点検に来たのに待たされていると訴えました。
上司は話を聞くと、落ち着いた声で答えました。
「点検の方ですね。では、本部に確認させていただきます」
「いや、だから急いでるんだけど」
「分かりました。会社名とお名前、連絡先をお願いします」
「えっ……いや、それは……」
さっきまでの強い口調が、急に歯切れの悪いものになりました。
上司は続けます。
「あと、身分証も確認させてもらえますか?」
男性は上着のポケットに手を入れましたが、何も取り出しません。
視線は上司からレジのほうへ、そして出口へと移っていきます。
少しの沈黙のあと、男性は小さな声で言いました。
「……今日はいいです。また来ます」
「分かりました。ただ、確認が取れないと点検はお願いできませんので」
男性はそれには答えず、足早に店を出ていきました。近くのお客さんたちも、その後ろ姿を見送っていました。
それ以来、男性が店に現れることはありませんでした。
上司は私に向き直り、少し表情をやわらげました。
「よく勝手に通さなかったね」
「すみません。どうしたらいいか分からなくなっちゃって……」
「大丈夫。ああいうときは、まず相手の会社と身元を確認すればいいから。急かされても慌てなくていいよ」
その言葉を聞いて、ようやく肩の力が抜けました。
結局、男性が本当に点検業者だったのかは分かりません。ただ、会社名も身分証も示さずに立ち去った姿は、今でも印象に残っています。
相手がどれだけ急いでいても、確認すべきことは確認する。あの日の上司の対応から、その大切さを学びました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














