「結ばなくても回収されるでしょ」ゴミ出しのルールを守らない住人。だが、私が指差したものを見て空気が一変
散らかった生ゴミの朝
ゴミ収集の朝、私が置き場に向かうと、道路まで生ゴミが散らばっていた。カラスが数羽、袋をつついて飛び立っていく。
原因は、いつも同じだった。口を結ばず、記名もない袋が一つ、無防備に置かれているのだ。
私のアパートでは、袋の口を結び、指定の袋を使い、名前を書くのが自治体の決まりだった。
それでも収集の人は、その袋を毎回きちんと持っていってくれる。だから当人は、平気なのだろう。
「回収されるんだから、別にいいでしょ」
いつだったか、袋の主らしき隣人がそう漏らしたのを、私は覚えていた。
散らかるたびに拾うのは、いつも早起きの住人たちだ。臭いも、日ごとにひどくなっていた。
「そろそろ、誰かが言わないとね」
同じ棟の住人がこぼす。とはいえ、面と向かって注意するのは、誰だって気が重い。
結び目一つの分かれ道
名指しは、角が立つ。私は置き場の壁に、短い貼り紙を一枚だけ貼った。
「袋の口を結び、記名にご協力を。カラス被害が続いています」
誰かを責める言葉は避けた。それでも、心当たりのある人には届くはずだった。
数日後、置き場でその隣人と鉢合わせた。口の開いたままの袋を、手にしている。
「結ばなくても回収されるでしょ」
悪びれない口ぶりだった。私は散らばった生ゴミの跡を指さして、静かに尋ねた。
「カラスが散らかした袋、誰の?」
隣人の口元が、こわばった。答えを探すように、目が泳ぐ。
「……それは、たまたま」
言い訳は、続かなかった。近くにいた住人が、拾い集めた箸の袋を手に頷いた。
「毎朝、これ拾ってたんです」
もう一人の住人も、静かに横に並ぶ。逃げ道をふさがれた隣人は、視線を落として黙り込んだ。
やがて隣人は顔を赤くして、その場で無言のまま、袋の口を固く結び直した。
次の収集日から、その袋には名前が書かれ、口はしっかり結ばれていた。カラスが散らかすことも、なくなった。
置き場で会うと、隣人は気まずそうに目を伏せ、先に小さく会釈するようになった。以前の強気な口ぶりは、もう消えていた。
「おはようございます」
私も同じ言葉を返す。責め立てなくても、結び目一つで朝の景色はこんなにも変わるのだと知った。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














