「場所変えてもいいですか?」棚の中の配置を変えた義母。翌朝、義母と祖母が揉めていたワケ
四十年動かなかった棚
母と、母の義母である祖母は、同じ家で暮らしていた。
台所仕事は母の担当だった。それでも食器棚の中身だけは、祖母が嫁いだ日から一度も動いていない。
母が切り出したのは、夏の夜だった。
「毎日使う茶碗が、一番上なんです。場所変えてもいいですか?」
「いいですよ、好きになさい」
祖母はそう言って、寝室へ入っていった。
近所に住む私は、その日たまたま泊まっていた。母はうれしそうに戸を開ける。茶碗が触れ合う、かちりという音が続いた。
「重いお皿は下。汁椀は手前。ね、こっちのほうが使いやすいでしょう」
「うん。なんで今までやらなかったの」
「聞けなかったのよ。今日やっと、いいって言ってもらえた」
棚の奥から出てきた来客用の湯呑みは、手のひらにずしりと重かった。母はそれを、上の段の隅にそっと寄せる。一時間かけて、食器棚は生まれ変わった。
朝の台所で聞いた理由
翌朝、台所から音がしないのが気になって、私は起きた。
母が、開いた食器棚の前に立っていた。汁椀は最上段。重い皿は手前。湯呑みは奥。ゆうべ動かしたものが、全部、元の場所に戻っている。
祖母は卓袱台でお茶を飲んでいた。食器のことは、何も言わない。天気の話をして、新聞をめくった。
「お義母さん。食器棚、ゆうべのままではないですよね」
母の声は、震えてもいなければ、尖ってもいなかった。祖母の手が、湯呑みを持ったまま止まる。
「なんの話?」
「戻されたのなら、それでいいんです。ただ、黙ってやられると、こちらには理由が分かりません」
祖母は湯呑みを置いた。何か言おうとして、口を閉じる。窓のほうへ目を逸らし、それからようやく、母を見た。
「黙って戻したのよ、元の方が良くて」
「…そうでしたか」
「夜中に喉が渇いて、台所に来たの。そうしたら、どこに何があるか分からなくてね。四十年、目をつぶってでも取れた場所なのよ」
祖母の声が、少しだけ小さくなった。
「それが急に…自分の家じゃないみたいで」
母はしばらく黙っていた。それから、はっきり言った。
「それを、ゆうべのうちに言ってください。言われなければ、分からないんです」
「……そうね。悪かったわ」
祖母が母に謝るのを、私は初めて見た。
その朝、二人は棚の前で三十分話し合った。祖母がよく使う湯呑みと急須は、元の場所へ。母の汁椀と茶碗は、手の届く下の段へ。
「これでいい?」
「はい。お義母さんは、そこが取りやすいですよね」
今も実家の食器棚は、あの朝決めた並びのままだ。何かを動かすときは、どちらかが必ず先に声をかける。祖母は、母が台所に立つ時間には、勝手に戸を開けない。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














