「一生ここに居座るつもりか」夫と20年繰り返した喧嘩。だが、夫が後悔したワケ
娘が教えてくれた仕様変更
その話を聞いたのは、社会人になった娘と洗濯物をたたんでいた時だった。
「ママ、メッセージのアプリ、前と変わったの知ってる?」
「なにが」
「送信は1時間で取り消せなくなった」
「……1時間を過ぎたら?」
「もう無理。相手の画面に残りっぱなし」
娘は何気なく言っただけだ。それでも私は、タオルをたたむ手を止めていた。
夫は酒癖が悪い。酔えば些細なことで激怒し、外で飲めば私を置いて先に帰ってしまう。家で飲んで言い合いになった夜は、私が寝室に逃げるのが決まりだった。
逃げた後に始まるのが、暴言の連投だ。
「一生ここに居座るつもりか」
「顔を見るのもうんざりなんだよ」
私は既読を付けず、朝を待つ。すると翌朝、シラフになった夫が全部消してしまう。画面に残るのは、取り消しましたという味気ない一行だけだ。
証拠が消えた食卓で、夫は何食わぬ顔でテレビを見る。そして週末には、1万2千円の焼肉が用意される。
「たまには奮発しないとな」
謝罪はない。20年、その繰り返しだった。
木曜の朝、指が止まった
その水曜も、夫は缶ビールを空けながら絡んできた。私は黙って寝室へ入り、いつも通りスマホを裏返して眠った。
朝、画面には32件の通知が並んでいた。最後の一通は、午前2時を回っている。
私は台所に立ったまま、上から順に全部開いた。指が震えるかと思ったが、そんなことはなかった。
起きてきた夫が、スマホを手に取る。
スクロールする指が、途中で止まった。
上へ、下へ、また上へ。何度なぞっても、暴言は一件も消えない。
「おい…これ」
「読んだよ。全部ね」
夫の顔が、そのまま凍りついた。口を開きかけて、言葉が出ず、視線だけがテーブルの上をさまよう。
「…酔ってたんだよ、あれは」
「1時間過ぎると消せないんだって。娘が教えてくれた」
夫は椅子の背にもたれたまま、動かなくなった。
そこへ娘が入ってきて、私の手元を覗き込んだ。
「これ、パパが送ったやつ?うわ、ひどい」
夫は娘の顔を見られなかった。
「今夜、焼肉でも」
「いらない」
私は皿を置いて、まっすぐ夫を見た。
「消せない場所に書いたのは、あなたでしょう。次に届いたら、それを持って役所に行くから」
返事はなかった。夫はうつむいたまま、冷めた味噌汁に口をつけただけだった。
あれ以来、夜中にスマホが震えることはなくなった。夫は今も飲むが、酔うと黙って寝室へ入っていく。
消えない、というだけで人はこんなに変わるのだと、50を過ぎて初めて知った。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














