3か月前に買った上着の返品を求める客。「着てみないと分からないでしょう」と主張する客に伝えた正論
カウンターに置かれた、タグのない上着
アルバイト先の洋服店で働いていたころのことです。閉店が近づいた時間に、一人の男性のお客様が上着を持ってカウンターへ来られました。
きれいにたたまれていましたが、タグは外されています。縫い目のあたりには、少し色が抜けたような跡もありました。
「サイズが合わなかったから返品したい。3か月前に買ったんだけど」
レシートをお持ちか確認すると、「ない」とのことでした。
店では、レシートがなく、すでに着用された跡がある商品については返品を受けられない決まりになっていました。私は教わっていた通り、そのことを伝えました。
「申し訳ありません。レシートがなく、ご着用の跡がある品はお返しできません」
すると、お客様の表情が曇りました。
「着てみないと分からないでしょう」
確かに、実際に着てみて初めてサイズ感が合わないと気づくことはあります。ただ、それでも私の判断で店の決まりを変えることはできません。
「申し訳ありませんが、レシートがなく、ご着用の跡がある品はお返しできません」
もう一度、同じ内容を伝えました。
「合わない服なんて持っていても意味がないんだけど」
どう返せば納得してもらえるのだろう。そんなことを考えるほど、余計な言葉を足したくなりました。
それでも、そこで言い合いにならないよう、私は商品について細かく指摘するのをやめました。目の前のお客様を見て、必要な説明だけを繰り返しました。
「申し訳ありません。こちらは返品をお受けできません」
三度目になるころには、最初より少しだけ落ち着いて言えていたと思います。
「同じ説明ができたなら、それでいいよ」
お客様はしばらく黙ってカウンターの上を見ていました。
やがて上着を手に取り、小さく息を吐きました。
「……もういい」
声を荒らげられることもなく、そのまま出口へ向かわれました。
私はいつも通り「ありがとうございました」と声をかけました。
お客様が店を出たあと、レジを締め、売上を確認し、閉店作業を進めました。そこで初めて、自分の手が少し震えていることに気づきました。
言い争いになったわけではありません。それでも、断る言葉を繰り返すだけで、思っていた以上に緊張していたようです。
私はまだ、その店で働き始めて一年も経っていませんでした。
翌日、先輩に前日のことを話しました。
先輩は話を聞き終えると、レジの下から紙袋を補充しながら言いました。
「同じ説明ができたなら、それでいいよ」
その言葉を聞いて、少しだけ肩の力が抜けました。
あの日から、返品を断ることが平気になったわけではありません。ただ、相手を言い負かそうとしなくても、必要なことを落ち着いて伝えればいいのだと思えるようになりました。
今でも迷う場面では、余計な言葉を足す前に、まず店で決められた説明をきちんと伝えるようにしています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














