「名前で呼んであげたほうがいいと思う」子供を名前で呼ばない母親。だが、他の保護者が何気なく伝えた一言
運動会の列のわきで、静かに返した人がいた
子どもの運動会で、私は救護テントの近くの当番に入っていました。
グラウンドでは次の競技の招集が始まり、白い線のわきに子どもたちが少しずつ集まっていました。
私の前には、うちの子と同じ学年の男の子の母親と、その子の妹が立っていました。
その家は三人きょうだいで、男の子は真ん中の子です。
私は以前から、少し気になっていることがありました。
上の子と妹は名前で呼ばれているのに、その男の子だけ、母親から名前ではない呼び方をされることがあったのです。
うちの子と仲のいい子だったこともあり、少しぞんざいにも聞こえるその呼び方が、耳に残っていました。
競技の合間、その男の子を探していた友達が走ってきました。
「ねえ、まだ来てない?」
母親は辺りを見回しながら、いつもの名前ではない呼び方で男の子のことを口にしました。
すると妹も、母親の言い方をまねるように同じ呼び方をしました。
「あっちにいるんじゃない?」
その言葉が続くと、近くにいた何人かの保護者が一瞬だけこちらを見ました。
私も気にはなりましたが、よその家庭のことでもあり、何も言えずにいました。
そのとき、私たちの少し後ろにいた別の保護者が、ためらうように一歩前へ出ました。
「…あの、名前で呼んであげて」
母親が振り返りました。
「え?なんですか?」
その保護者は少し間を置いて、もう一度言いました。
「その子のこと、名前で呼んであげて」
母親は戸惑ったような顔をしました。
「でも、家ではずっとこう呼んでるんですけど」
「そうなんですね。でも…名前で呼んであげたほうがいいと思う」
三度目も、声を荒らげることはありませんでした。母親を責めるような言い方でもありません。
その保護者はそれ以上何も言わず、子どもたちが並ぶ白い線のほうへ視線を戻しました。
名前を呼ばれた子が見せた、その日の顔
母親は何か言いかけましたが、そのまま黙りました。
友達はまだそばで待っています。
そのとき母親がテントの横へ目を向けると、裏手から男の子の姿が少し見えました。
母親は一度息をついてから、今度はその子の名前をはっきりと呼びました。
「あ、いた。あそこにいる。悪いけど、一緒に連れてきてくれる?」
「うん、わかった」
友達が走っていき、ほどなくして男の子と一緒に戻ってきました。
男の子は母親のほうを見て、一瞬だけ意外そうな顔をしました。自分の名前を呼ばれたことに気づいたようにも見えました。
けれど何も言わず、友達の隣に並ぶと、体操服のすそを直しました。
妹が母親の袖を引きました。
「お兄ちゃん、いたね」
「うん」
母親は短く答えました。
それから男の子の名前をもう一度呼びました。
男の子が振り返ります。
「ちゃんと見てるからね」
男の子は少し照れたように手を上げました。
やがて合図が鳴り、白い線の上を子どもたちが一斉に走り出しました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














