「ぼく、自分で持つ」袋をめぐって店員に食ってかかった父親。おもちゃを取り出した息子の一言に、返す言葉を失った瞬間
おもちゃ一つの会計で、空気が変わった
10年ほど前、ショッピングモールにある100円均一の店で見かけた出来事です。
昼どきの店内はレジに列ができ、私は幼い男の子を連れた男性の後ろに並んでいました。
男性の順番になると、カウンターにおもちゃを一つ、放るように置きました。
男の子はうれしそうにレジをのぞき込んでいました。
「早く、早く」
男の子が待ちきれない様子で声を上げると、若い女性店員が笑顔を向けました。そして男性に尋ねます。
「袋はご入り用ですか?」
その途端、男性は大きなため息をつきました。
「当たり前だろ。こっちは客だぞ」
店員は一瞬戸惑ったようでした。私には普段の確認に思えましたが、男性には気に障ったようです。
「申し訳ありません。お子さんが自分で持ちたがることもあるので、確認しただけなんです」
店員がそう答えると、男性は顔をしかめました。
「……バカにしてるのか」
「いえ、そういうつもりでは…」
「子どものことまで口を出すなよ。ちゃんと教育されてないのか」
男性の声は鋭くなり、店員は「申し訳ありません」と頭を下げます。私はすぐ後ろで順番を待ちながら、何も言えずにいました。
男性はそのあとも不満を口にし、店員が頭を下げる場面が続きました。男の子は父親の足元で、おもちゃのほうを見つめていました。
「ぼく、自分で持つ」父親が黙り込んだ瞬間
やがて会計が終わり、店員がおもちゃを袋に入れて差し出しました。男性が受け取ると、男の子が袋に手を伸ばします。
袋からおもちゃを取り出すと、両手で胸に抱えました。
「ぼく、自分で持つ」
男の子はうれしそうにそう言って、そのまま出口へ歩き出しました。
男性の手には、空っぽになった袋だけが残ります。
さっきまであれほど文句を言っていた男性が、何も言わずに男の子の背中を見つめていました。背後の列から、小さな笑い声が聞こえました。
出口の手前で、男の子が振り返ります。
「パパ、行こう」
男性は空の袋をくしゃっと丸めてポケットにしまい、店員と目を合わせないまま男の子の後を追いました。
ようやく私の番になると、店員は背筋を伸ばし、丁寧に声をかけてくれました。
「大変お待たせいたしました」
私はその言葉を聞きながら、先ほどの男の子の姿を思い返していました。
店員が説明したことを、男の子は自分の行動で示したように見えました。誰かを言い負かすためではなく、ただ自分のおもちゃを持ちたかっただけなのでしょう。
たった一言で、それまで続いていた父親の文句が止まった光景は、10年たった今も忘れられません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














