「新人なんかレジに立たせないでよ」混雑するカフェで店員を急かした男性。だが、財布を見失った直後にかけられた言葉
新人店員を急かす男性客
私が学生時代、カフェでアルバイトをしていたころの話です。
その日は土曜日の午後で、店内は大勢のお客さんで混み合っていました。
レジを担当していたのは新人の女の子です。
私はその隣に立ち、会計の補助をしていました。
新人はまだ仕事に慣れておらず、緊張からレジの打ち間違いを繰り返していました。
そのたびに操作をやり直すため、お客さんの列も少しずつ長くなっていきます。
すると、列の中ほどにいた男性客が、大きなため息をつきました。
腕を組み、つま先で床を何度もたたいています。
「はぁ……いつまで待たせるの」
その声に、新人はびくっと肩を揺らしました。
「申し訳ありません。もう少々お待ちください」
私が代わりに頭を下げると、男性は不満そうな顔で言いました。
「新人なんかレジに立たせないでよ。こっちは待ってるんだからさ」
新人は「すみません……」と小さく答えましたが、焦るほど手元がおぼつかなくなっていました。
周囲のお客さんも気まずそうに視線をそらしています。
そんなとき、男性のすぐうしろに並んでいた年配の常連客が、穏やかな声で新人に話しかけました。
「ゆっくりでいいよ、焦らなくて大丈夫」
いつも店に来てくれる、物腰のやわらかな男性です。
新人は顔を上げ、小さくうなずきました。
「……ありがとうございます」
ひと呼吸置いてからレジに向き直ると、少しずつ落ち着きを取り戻したようでした。
財布が見つからない男性に、常連客がかけた言葉
やがて、先ほど文句を言っていた男性客の順番になりました。
男性はぶっきらぼうに注文を済ませると、上着のポケットに手を入れました。
ところが、何かを探すように何度もポケットを確かめています。
「あれ……ちょっと待って。たしかここに…」
今度は反対側のポケットを探り、かばんの中まで確認し始めました。
どうやら財布が見当たらないようです。
「おかしいな……どこにやったんだろう」
男性の表情から、先ほどまでの余裕が消えていました。
今度は自分が会計を止めてしまい、後ろのお客さんを待たせています。
私も新人も、どう声をかけようか迷っていたときでした。
すぐうしろにいた常連客が、男性に向かって静かに言いました。
「ゆっくりでいいよ、焦らなくて大丈夫」
それは、さっき新人にかけてくれた言葉とまったく同じでした。
男性は一瞬、手を止めました。
常連客を振り返ると、気まずそうに目を伏せ、顔を赤くしました。
「……すみません」
小さく頭を下げた男性は、財布を車に忘れたのか、急いで店の外へ出ていきました。
その背中を見送ったあと、新人と目が合いました。彼女は緊張が解けたように、ほっと笑いました。
続いて、常連客の会計を済ませたときのことです。
「忙しいのに、笑顔で対応してくれてありがとうね」
そう声をかけられ、私も思わず笑顔になりました。
「いえ、こちらこそ。先ほどはありがとうございました」
常連客はにっこり笑ってトレーを受け取り、窓ぎわの席へ向かいました。
新人を責めることも、財布を探す男性をからかうこともなく、同じ言葉で二人を気遣った常連客。
あの日の「焦らなくて大丈夫」という優しい声は、今でも心に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














