「でも、何も植えてなかったですよ」勝手に花壇を使う隣のおじいさん。だが、大家さんの説明に言い返せなくなった
留守のたびに増えていく苗
私が暮らす賃貸住宅には、部屋ごとに小さな花壇があります。
私も好きな花を植えようと、肥料を混ぜて土を整えていました。
ところがある日、仕事から帰ると、花壇の真ん中に見覚えのない苗が植えられていたのです。
それからも留守にするたびに苗が増え、いつの間にか私の花壇は、知らない花でいっぱいになっていました。
植えていたのは、隣の部屋のおじいさんでした。
向かいの部屋の奥さんによると、ほかの花壇でも苦情を受けたことがあり、それからは住人が留守の間に植えるようになったそうです。
ある日の昼、私が苗のポットを持って花壇へ行くと、おじいさんがしゃがんで、また新しい苗を植えていました。
「ああ、ちょうどよかった。花が増えて、きれいになったでしょう」
「あの、ここは私の部屋の花壇なんですけど……」
「うん。でも何も植わってなかったからね。空いてるのはもったいないと思って」
「これから植えるつもりで、土を準備していたんです」
私が手に持った苗を見せると、おじいさんは花壇の端を指さしました。
「それなら、そっちに植えたらどうかな。真ん中は今の花のほうがよく見えるから」
「でも、私が使う花壇なので、勝手に植えられると困るんです」
「せっかく植えたんだし、そのままでもいいでしょう」
悪気はないのかもしれませんが、こちらの話を聞いてもらえません。
自分の花壇なのに、好きな場所に花を植えられないなんて。私は困り果ててしまいました。
大家さんの前で、言葉が消えた朝
その晩、大家さんに電話で相談しました。すると、ほかの部屋からも同じような相談を受けているとのこと。直接話をしてくれると言ってくれました。
別の日の朝、大家さんが私の花壇の前に来ると、ちょうどおじいさんが隣の部屋から出てきました。
私は自分の玄関先から様子を見ていました。
「ちょっと、この花壇のことでお話があるんですが」
大家さんが声をかけると、おじいさんは不思議そうな顔をしました。
「何ですか?」
「こちらの花壇に、お花を植えられましたよね」
「ええ。空いてたから植えたんです。花があったほうが、みんなも喜ぶでしょう」
すると、大家さんは落ち着いた声で伝えました。
「花壇は、それぞれのお部屋のものです」
「でも、何も植えてなかったですよ」
「何も植わっていなくても、そのお部屋の方が使う場所なんです。ほかの方からも同じご相談をいただいていますし、勝手に植えるのはやめていただけませんか」
おじいさんは黙って花壇を見つめていました。
大家さんは続けました。
「今植えてあるものも、ご自分の花壇へ移してください」
おじいさんは何か言いかけ、通路の向こうへ目を向けました。そこには、玄関先に出ていた向かいの奥さんがいました。
奥さんが静かに首を横に振ると、おじいさんはそれ以上何も言わず、うつむいて自分の部屋へ戻っていきました。
翌日、花壇を見ると、見知らぬ苗はすべておじいさんの花壇に移されていました。
私はようやく、自分で選んだ苗を花壇の真ん中に植えることができました。
春になって花が咲くと、向かいの奥さんが花壇をのぞき込んで言いました。
「真ん中に咲くと、やっぱり映えますね」
「ありがとうございます。やっと植えられました」
隣では、おじいさんが苗でいっぱいになった自分の花壇の前にしゃがみ、こちらに背を向けていました。
自分の花壇に、自分の好きな花を植える。当たり前のことができるようになって、ほっとしました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














