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2026.08.31(Mon)

「俺だって、この店が嫌いなら何も言わないよ」毎日のように指摘を続けた客。だが、店長が見せた対応とは

「俺だって、この店が嫌いなら何も言わないよ」毎日のように指摘を続けた客。だが、店長が見せた対応とは

レジの脇に紙が貼られた日

書店で働いていた頃、店の中の小さな不備をよく教えてくれるお客さんがいました。本についたわずかな汚れや、違うジャンルの棚に紛れ込んだ一冊まで、よく気づく人でした。

ある日も、一冊の本を持ってレジへやってきました。

「ちょっと、これ見て。ここ、汚れてるでしょう」

差し出された本を見ると、確かに表紙の端に薄い汚れがあります。

「申し訳ありません。すぐ確認します」

私が頭を下げると、その人は少し身を乗り出しました。

「いや、怒ってるわけじゃないんだよ。たださ、こういうのって誰かが言わないと、そのままになっちゃうでしょう?」

「はい……ありがとうございます」

指摘そのものは間違っていません。こちらに落ち度があれば直すのは当然です。

ただ、その人の場合はそこから話が長くなることがよくありました。

「俺だって、この店が嫌いなら何も言わないよ。よく来るから気になるんだって」

「そうですよね」

「前にも棚の場所、教えたでしょう?あれもちゃんと直したほうがいいと思って言ったんだから」

後ろにお客さんが並び始めても、なかなか話は終わりません。レジを離れられず、品出しも止まります。

同じようなことが何度も続き、スタッフの間でも「今日は何か言われるかな」と身構えるようになっていました。

そんなある日、その人がまたレジで話し始めると、店長がカウンターまで出てきました。

「いつもありがとうございます。気づいたことを教えていただけるのは、本当に助かっています」

その人は少し嬉しそうにうなずきました。

「そうだろ?別に文句を言いたいわけじゃないんだよ」

「はい。なので、これからはご指摘を全部こちらで記録することにしました」

「記録?」

「はい。スタッフで確認して、直したものについては、レジの横に出します。せっかく教えていただいたことを、その場だけで終わらせたくないので」

店長は責めるような言い方をしませんでした。ただ、これからの受け止め方を淡々と説明しただけでした。

その人も少し考えてから、「ああ、それなら分かりやすいな」と答えました。

翌日、レジの脇には小さな紙が貼られていました。店内で改善したことを、短く書いて知らせるためのものでした。

それを見た同僚が、小声で私に言いました。

「これなら、ちゃんと聞いてますって伝わりますね」

私は思わず、「うん。話を聞きながらレジが止まることも減るかも」と返しました。

指摘ではなく、本の話をしに来た

記録を始めても、その人からの指摘がすぐになくなったわけではありません。

「ここの棚、さっき一冊違うのが入ってたよ」

「ありがとうございます。確認して記録しておきますね」

「うん、頼むよ」

以前ならそこから話が続くこともありましたが、記録するようになってからは、そのやり取りだけで終わる日が増えていきました。

改善した内容が貼り出されていると、その人は足を止めて眺めることもありました。

「あ、この前のやつ、直したんだ」

「はい。教えていただいて助かりました」

「そっか。ならよかった」

そんな短いやり取りで、その日は棚のほうへ戻っていきました。

しばらくすると、指摘そのものも以前ほど頻繁ではなくなりました。本棚をゆっくり見て回り、何も言わずに帰る日も増えていきました。

ある夕方、その人がレジへ向かってきました。

私は反射的に記録用のペンへ手を伸ばしました。

すると、その人は少し首をかしげました。

「いや、今日は違うよ」

「え?」

「この作家の新刊、もう入った?」

思わず私はペンから手を離しました。

「あ、そちらですね。少々お待ちください。確認します」

端末で調べると、発売は翌週の予定でした。

「来週には入る予定です」

「来週か。じゃあ、また来るよ」

「はい、お待ちしています」

その人はそれだけ言うと、もう一度棚を見ながら店を出ていきました。

何度も頭を下げながら長い話を聞いていた相手と、初めてごく普通に本の話をしたような気がしました。

店長が相手を言い負かしたわけでも、来店を断ったわけでもありません。こちらが受け止める方法を少し変えただけです。

それでも、店の空気は確かに変わりました。

店を辞めた今でも、ときどきあのレジ脇の紙を思い出します。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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