「お直し代が4000円、もう一枚買えますよ」お直しを前提に服を選ぶ常連客。不思議に思った店員が思わず聞いた理由とは
いつも、お直しを前提に服を選ぶお客様
婦人服の売り場で働いていたころ、決まった曜日の午後によく来店されるお客様がいました。
先輩たちも顔を覚えている常連の方で、店内をひと通り見たあと、いつも小さいサイズが並ぶ棚から一着を選ばれます。
ただ、そのまま着られることはほとんどありませんでした。
「これ、いつものように直してもらえますか」
丈を短くしたり、身幅を詰めたり、ときには袖も調整します。
それでもその方は、気に入った服が見つかると迷わずレジへ持ってこられました。
その日選ばれたのは、落ち着いた色のワンピースでした。
私はいつもの伝票を出し、直す箇所を一つずつ確認していきました。
丈、身幅、袖。合計を計算すると、お直し代は4000円になります。
金額を書き込んだところで、私は少し迷いました。その店には、同じくらいの価格で買える服もあります。
余計なことかもしれないと思いながら、私は口を開きました。
「お直し代が4000円、もう一枚買えてしまう金額ですよ」
言った直後、買い方に口を出してしまったのではないかと不安になりました。
「でも、私はこの服が好きなの」
ところが、お客様は少し驚いたように私を見たあと、ふっと笑いました。
「知っていますよ」
そして、レジ台に置いたワンピースへ目を落としました。
「でも、私はここの服が好きなの。この形も好きだし、着ていて落ち着くのよ」
別の服をもう一枚買えるかどうかではなく、自分が気に入った一枚を着たい。そのためのお直し代なのだと、その言葉でようやく分かりました。
「サイズがぴったりの服を探せば、もっと安く済むのかもしれないけどね」
そう言って、お客様はもう一度笑いました。
私は「かしこまりました」と答え、伝票の続きを書きました。
数日後、仕上がったワンピースを受け取りに来られたお客様は、試着室から出ると姿見の前で袖と裾を確認しました。
「うん、これなら大丈夫」
その表情は、最初に服を選ばれたときよりもうれしそうに見えました。
それ以来、私はお直し代が高くなっても、その方に金額以上のことを言わなくなりました。
服の値段だけを見れば、「そこまでして着なくても」と思うことがあります。でも、何にお金をかけたいかは人それぞれです。
売り場で働いていたあのころ、自分にとっての「もったいない」が、ほかの人にとっても同じとは限らないのだと教えてもらった出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














