「ちょっと音、大きくない?」新幹線の指定席で15分動画を流した男性。だが、乗務員に注意された結果
通路をはさんだ席から聞こえた音
親戚の法事に向かうため、朝いちばんの新幹線の指定席に座っていました。持参したお茶を開け、ようやくひと息ついたところでした。
しばらくして、通路をはさんだ席に五十代くらいの男性が座りました。男性は席に着くなり、スマートフォンをテーブルに立てかけて動画を流し始めます。
その音が、驚くほど大きかったのです。
動画の中の笑い声や話し声が、走行音に負けずこちらまで聞こえてきます。私は文庫本を開いていましたが、どうしても内容が頭に入ってきません。
「…ねえ、あれ、結構聞こえるよね」
「うん。ちょっと大きいね」
後ろの席から、若い人たちが小声で話すのも聞こえてきました。
男性は周囲の様子を気にすることもなく、ときどき画面を操作しながら動画を見続けています。
誰かが声をかけるのだろうかと思いましたが、近くの乗客もちらりと男性を見るだけでした。直接注意して言い合いになるのも嫌なのだろうと思います。私も同じでした。
そうして15分ほど経ったころ、男性はようやく動画を止めました。
静かになった、と安心したのも束の間でした。
今度はそのまま電話をかけ始めたのです。
「もしもし、俺だけど」
「今?新幹線。大丈夫、大丈夫」
「いや、それよりさ、ちょっと聞いてくれよ」
今度は男性自身の大きな声が、車内に響き始めました。
乗務員が席の横で足を止めた
私は文庫本を閉じかけた、そのときでした。
車両の扉が開き、巡回してきた乗務員が通路を歩いてきました。男性の声は離れたところからでも聞こえていたのか、その席の横まで来ると足を止めます。
「恐れ入ります。お電話はデッキでお願いいたします」
男性はスマートフォンを耳に当てたまま、乗務員を見上げました。
「……ああ、分かったよ」
そう言って通話を切ると、乗務員はさらに穏やかな声で続けました。
「それと、動画をご覧になる際も、周囲に音が聞こえないようお願いいたします」
男性は一瞬黙ったあと、スマートフォンをテーブルの上に置きました。
「はいはい」
少し不満そうな声でしたが、それ以上言い返すことはありませんでした。
乗務員が一礼して通路を戻っていくと、車内にはいつもの走行音だけが残りました。
男性は腕を組み、窓の外を向いたまま動きません。その横顔は、どこか納得していないようにも見えました。
その後、男性が動画の音を出したり、席で電話をしたりすることはありませんでした。
私は冷めかけたお茶をもう一口飲み、ようやく文庫本の続きを読み始めました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














