「すみません…遅くなってしまって」結婚式に40分遅れてきた友人。スタッフの気遣いに心温まった瞬間
受付をたたんだあと、扉が開いた
一年ほど前の秋、元同僚の結婚式で受付を頼まれた。
名簿の名前を順に確認していったが、最後までひとつだけ、印のつかない欄が残った。
受付台を片づけて会場に入り、私は入口に近い円卓の席についた。
私たちのテーブルにも一席だけ空いた椅子があった。
乾杯が終わり、料理が二皿目に変わったころだった。
開始から40分ほどたったところで、扉が細く開いた。荷物を抱えた女性が、申し訳なさそうに中をのぞいていた。
入口に近い何人かが振り返ったものの、会場全体の進行が止まるほどではない。女性はスタッフの方を見つけると、小さく頭を下げた。
「すみません…遅くなってしまって」
「大丈夫ですよ。お席までご案内しますね」
スタッフの方は声を落とし、目立たないように女性を会場の中へ案内した。
そして連れてこられたのは、私たちのテーブルに残っていた空席だった。
そこで私は、受付名簿でまだ印をつけていなかったのが彼女だったのだと分かった。
「こちらです。どうぞ」
「ありがとうございます。本当にすみません」
女性は何度も頭を下げながら椅子に腰を下ろした。
スタッフの方は一度その場を離れたが、少しすると、きれいに畳んだ上着を腕にかけて戻ってきた。
「上着を1枚お貸しします。こちらのお席、少し冷えますので、よかったらお使いください」
女性は驚いたように顔を上げた。
「えっ、いいんですか。ありがとうございます」
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
上着を羽織ると、女性はようやく少しだけ表情をゆるめた。
周囲もすぐに会話や食事へ戻り、司会の方も何ごともなかったように進行を続けていた。
新婦がテーブルを回ってきた
その後、歓談の時間になり、新婦が円卓をひとつずつ回り始めた。
私たちのテーブルまで来たところで、私は新婦に小さな声で伝えた。
「さっき、遅れてた友人も来たよ。スタッフさんが席まで案内してくれてた」
新婦は私の隣のほうへ視線を向け、彼女の姿を見つけた。
「あ、来てくれたんだ。よかった」
そう言うと、そのまま女性のそばへ歩いていった。
気づいた女性は、慌てて立ち上がろうとした。
「ごめん。本当にごめんね。こんなに遅くなって…」
「いいって。もう座ってて」
「でも、せっかくの日なのに…」
「来てくれたんだから、それでいいよ。ちゃんと食べてね」
新婦が笑うと、女性は俯きながら小さくうなずいた。
「…ありがとう」
「うん。またあとでね」
新婦はそう言って、次のテーブルへ向かった。
大げさに慰めるわけでも、遅刻した理由をその場で聞くわけでもなかった。その短いやり取りに、女性も少しほっとしたように見えた。
スタッフの方は離れた場所で空いたグラスを下げていて、こちらを気にする様子もなかった。
遅れてきたことを周囲に知らせることもなく、席まで案内し、必要なものを差し出して、また仕事へ戻っていく。その対応がとても自然だったのを覚えている。
上着は、お開きの時間まで女性の肩にかかったままだった。
帰りぎわ、彼女はクロークの前で上着をきちんと畳んで返していた。
「本当に助かりました。ありがとうございました」
「いえ。お気をつけてお帰りください」
女性はもう一度頭を下げてから、会場をあとにした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














