「もう少しゆっくり走ってもらえませんか」通学路を走る車。だが、注意しても変わらなかった運転が変わったワケ
細い道を、走り抜けていく車
引っ越して最初に覚えたのは、アパートの横を通る細い道のことだった。
塀と生垣にはさまれて、車がすれ違うのがやっとの幅しかない。それでも朝になると、ランドセルを背負った子どもたちが列になって歩いていく。
そこを、いつも同じ軽自動車が走っていった。
近くに住む女性の車だった。
角を曲がってくるたび、子どもたちが道の端に寄って足を止める。
私は何度かその様子を見ているうちに、気になるようになった。
ある朝、ごみ出しのときに女性と顔を合わせた。
少し迷ったが、思いきって声をかけた。
「すみません。朝、この道を通りますよね。子どもが多いので、もう少しゆっくり走ってもらえませんか」
女性は一瞬きょとんとしてから、困ったような顔をした。
「朝は急いでるんですけど…」
「そうですよね。でも、角から子どもが出てくることもあるので」
「気をつけてはいます」
そう言って、女性はその場を離れた。
自分では危ない運転をしているつもりはないのだろう。けれど、その後も車が角へ入ってくるたび、子どもたちは立ち止まっていた。
しばらくして、また顔を合わせた。
「この前も言ったんですけど、やっぱり朝は子どもが多くて。見ていてちょっと怖いんです」
すると女性は、少し表情を曇らせた。
「そんなにスピード出してないと思うんですけど」
「そう感じてるならすみません。ただ、子どもたちが車が来るたびに避けているので…」
「…わかりました」
返事は短かった。
三度目に声をかけたのは、さらに何日かたった朝だった。
「何度もすみません。朝は通学路ですよ。せめて角のところだけでも、ゆっくりお願いできませんか」
女性は少し黙ってから言った。
「私も気をつけて走ってるんです」
「はい。それは分かるんです。ただ、何かあってからでは遅いので」
それ以上は言えなかった。
女性も何も返さず、そのまま歩いていった。
黄色い旗の前で、車が止まった
それから少しして、朝の角に町内の見守りをしている人たちが立つようになった。
何がきっかけだったのかは、私には分からない。
黄色い旗を持った人が登校時間に角へ立ち、子どもたちが道を渡るときには旗を横へ出すようになった。
ある朝、そこへ例の軽自動車がやってきた。
いつものように角へ入ってきたが、黄色い旗が上がるのが見えると速度が落ちた。
そして子どもたちが渡る少し手前で、車はきちんと止まった。
ランドセルの列が通り過ぎるまで、動かなかった。
近くにいた女性が、見守りの人へ声をかけた。
「ここに立ってもらえると、やっぱり安心しますね」
「朝は子どもが多いですからね。車からも分かりやすいほうがいいんでしょう」
その会話を聞きながら、私は止まっている軽自動車を見ていた。
私が三度声をかけたことが、何かを変えたのかは分からない。
ただ、それから見守りの人が立っている朝には、その車も角の手前で速度を落とすようになった。
二軒隣の部屋が空いたのは、それからひと月ほど後だった。引っ越した理由までは知らない。
今でも朝の細い道を見ると、注意する側とされる側だけでは変わらないことも、周囲から危険が見える形になると変わることがあるのだと思い出す。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














