「お金のことで大変だった時期もあって」披露宴で家族のお金の話まで始めた女性。だが、新婦の父がかけた一言とは
「ちょっとだけ、いいかしら」
従兄の結婚式に出席したのは、四年前のことです。会場には親族を中心に30人ほどが集まり、私は新郎側の出入口に近い席に座っていました。
披露宴の中盤、新婦側の親族席にいた60代くらいの女性が、ふいに立ち上がりました。
マイクは持っていません。それでも周りに聞こえる声で、少し照れたように笑いました。
「ごめんなさいね。ちょっとだけ、いいかしら。どうしても一つ話したくて」
司会もすぐには止めませんでした。女性が話し始めたのは、新婦が子どもだったころの思い出です。
「昔から本当にしっかりした子でね。こんな小さいころから…」
身ぶりを交えながら話す姿に、最初は会場からも笑い声が上がりました。
ところが、女性の話はなかなか終わりません。
「それでね、あのころは家のほうもいろいろあったでしょう。お金のことで大変だった時期もあって…」
そのあたりから、周囲の表情が少しずつ変わりました。
新婦は笑顔を残していましたが、どこか困ったように見えます。隣の親戚も、グラスを置いて私に顔を寄せました。
「…そこまで話すのか」
私は小さく首を振りました。
「ちょっと心配になってきた」
司会が声をかけても、話は終わらなかった
そこで司会が、できるだけ空気を壊さないような声で呼びかけました。
「ありがとうございます。そろそろお席へお戻りいただけますでしょうか」
女性は司会のほうを見て、申し訳なさそうに手を合わせました。
「あ、ごめんなさい。でも、あと少しだけ。ここまで話したから」
そして、また新婦のほうを向きます。
少しすると、司会がもう一度声をかけました。
「恐れ入ります。続きはぜひ、お席でゆっくりお話しいただければと思います」
「もう終わる、もう終わるから」
女性は笑いましたが、そのまま話を続けました。
さすがに会場も静かになっていました。私も料理に手をつけるタイミングが分からず、新婦の表情ばかり気になっていました。
三度目、司会が少しだけ間を置いてから言いました。
「申し訳ありません。そろそろお席へお願いいたします」
そこで、新婦の父が席を立った
すると、新婦の父が静かに立ち上がりました。
女性の横まで行くと、周囲にはほとんど聞こえないくらいの声で話しかけます。
「もう、そのくらいにしよう」
女性が少し驚いた顔で父を見ました。
父は責めるような口調ではなく、困ったように笑って続けました。
「話したいことがあるのは分かるよ。でも今日は、お祝いの日だからさ」
女性はしばらく黙っていましたが、やがて新婦のほうを見て、小さく息を吐きました。
「……そうね。ごめんね、長くなっちゃった」
そう言って座ると、新婦も少しほっとしたように笑って頭を下げました。
司会はそれ以上その出来事には触れず、明るすぎない声で進行を戻しました。
「ありがとうございます。それでは皆さま、引き続きご歓談をお楽しみください」
しばらくすると、会場にも少しずつ会話が戻ってきました。
女性にも、新婦に伝えたい思い出がたくさんあったのだと思います。ただ、気持ちが強いほど、どこまで話すか自分では見えなくなることもあるのかもしれません。
誰かが強く叱ったわけではありません。司会が何度も穏やかに促し、最後に新婦の父が「今日はお祝いの日だから」と声をかけたことで、ようやく披露宴はいつもの空気に戻っていきました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














