「これじゃ飲み物が少ないでしょう?」氷の量に納得しない客。だが、店長が取り出したものを見て声が変わった
飲み物を渡した瞬間、男性の顔が曇った
学生だったころ、駅前の喫茶店でアルバイトをしていました。
平日の夕方は仕事帰りのお客さんが重なる時間で、その日も注文と会計を待つ人が、カウンターの前に5人ほど並んでいました。
私は注文された冷たい飲み物を作り、男性へ渡しました。
ところが、男性はカップを持ち上げると、すぐに眉を寄せました。
「え、こんなに氷入れるものなの?」
思わず手元を見ましたが、いつもと同じ手順で作ったはずです。
「すみません。氷、少なめで作り直しましょうか?」
そう聞くと、男性はカップをカウンターへ置きました。
「いや、そういうことじゃなくて。これじゃ飲み物が少なく感じるでしょう?」
怒鳴っているわけではありません。それでも、後ろで待っている人にも聞こえるくらいの声でした。
「申し訳ありません。氷は決められた量を入れているんですが…」
「毎回これだけ入れてるの?」
「はい。いつも同じ量で作っています」
そう答えても、男性は納得していない様子でした。
後ろの列が止まっていることも気になり、私はどう説明すればいいのか分からなくなっていました。
店長が取り出したのは、いつもの計量カップだった
そのとき、奥で作業をしていた店長がこちらへ来ました。
「お待たせしてすみません。どうされました?」
男性はカップを指さしました。
「氷が多すぎる気がするんですよ。これが普通なんですか?」
店長はカップを見てから、私に尋ねました。
「いつもの量で作った?」
「はい。いつも通りです」
店長は小さくうなずくと、カウンターの下から氷を量るためのカップを取り出しました。
「うちでは、この線まで氷を入れると決めているんです」
そう言いながら、実際に氷をすくって線の位置まで入れて見せました。
「今、本人にも確認しましたが、いつもの量で作っています。ただ、多いと感じられたなら、氷を少なくして作り直せますよ」
男性は計量カップと自分の飲み物を交互に見ました。
「ああ…ちゃんと決まってるんですね」
先ほどまでより、声が少しやわらかくなっていました。
「はい。でも、お好みもありますから」
「じゃあ、悪いけど少なめでお願いできます?」
「もちろんです」
店長は新しいカップで飲み物を作り直しました。
男性は受け取ると、「どうも」と短く言って席へ戻っていきました。
「困ったら、一人で抱えなくていいから」
止まっていた列がようやく動き始めました。
「お待たせしました。次の方、どうぞ」
店長はそのままレジを手伝い、混雑が落ち着いてから私に声をかけました。
「さっき、どう返したらいいか迷ったでしょう」
私は苦笑いしながらうなずきました。
「はい。何を言っても、余計に怒らせそうで……」
店長は使った計量カップを洗いながら言いました。
「決まり通りに作ったなら、それはそのまま伝えて大丈夫。でも、お客さんが何を求めているのか分からなくなったら、無理に一人で何とかしなくていいからね」
その言葉を聞いて、ようやく肩の力が抜けました。
店長がしたのは、男性を言い負かすことではありませんでした。話を聞き、店の決まりを見せ、それでも希望があるなら応じる。ただそれだけでした。
学生だった私には、その落ち着いた対応がとても頼もしく見えたのを、今でも覚えています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














