「これ、もう少し何とかなりませんか」電車で大きな荷物が何度もぶつかった。だが、空気を変えた乗客の気遣いとは
大きな荷物が、揺れるたびに足元へ
去年の秋、仕事帰りに乗った電車はかなり混んでいました。
私はドアの近くで吊り革につかまり、乗り降りする人を避けながら立っていました。
途中の駅で、大きなキャリーケースを引いた人が乗ってきました。棚に上げるのは難しそうな大きさです。
「すみません、通ります」
持ち主は周囲に声をかけながらドア脇へ寄ろうとしていましたが、車内にはほとんど余裕がありません。結局、キャリーケースは少し通路側へ出たままになりました。
電車が揺れたとき、その角が近くに立っていた若い男性のすねに当たりました。
「すみません」
持ち主はすぐに荷物を引き寄せましたが、次の揺れでは車輪が男性の靴に触れます。
男性は足を引いてから、少し困ったような声で言いました。
「すみません。これ、もう少し何とかなりませんか」
「ごめんなさい。動かしたいんですけど、置けるところがなくて…」
持ち主も困った顔で周りを見ます。後ろにも横にも人がいて、大きな荷物を動かせる場所は見当たりませんでした。
「いや、でも足に当たってるんで…」
男性の声には少し苛立ちが混じっていました。
持ち主はもう一度「すみません」と頭を下げましたが、それだけでは状況は変わりません。
「私が少しずれますから」
そのとき、キャリーケースの横、ドア脇の壁際に立っていた年上の乗客が声をかけました。
「よかったら、私が少しずれますから、こっちに寄せませんか?」
そう言って体の向きを変え、荷物を寄せられるだけの場所を空けました。
「いいんですか?ありがとうございます」
持ち主は周囲を確かめながらキャリーケースを壁際へ寄せ、取っ手をしっかり握りました。
先ほどまで通路へ出ていた部分も小さくなり、男性の足元にも当たらなくなりました。
男性は荷物を見てから、少し表情をゆるめました。
「そこなら大丈夫そうです。すみません、ちょっと言い方きつくなって」
「いえ、こちらこそ。続けて当たってしまって、すみませんでした」
さっきまで張りつめていた空気が、そのやり取りで少しだけやわらいだ気がしました。
次の駅で人が降り、車内に少し余裕ができたころ、持ち主が年上の乗客に改めて頭を下げました。
「本当に助かりました」
「いえいえ。大きい荷物だと大変ですよね」
誰かを責めるのではなく、自分の立っていた場所をほんの少し譲る。それだけで収まることもあるのだと、今でも覚えています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














