「お父さんのときは出てこなかったね」母と気づいた違い。出かけるたびに開く、向かいの家の玄関
ドアを開けるたび、向かいの玄関も開いた
実家の前には、車1台がやっと通れるほどの道路がある。
その向かいには古い二階建ての家があり、いつも淡い色のカーディガンを着たおばあちゃんが住んでいる。
5〜6年前のある朝、出勤しようと玄関のドアを開けたときだった。
ほぼ同時に、向かいの玄関もガラリと開いた。
おばあちゃんは戸口に立ったまま、私が門を出るまでこちらを見ていた。
「おはようございます」
声をかけると、小さく会釈をするだけ。それ以上、何か言われることはなかった。
ところが翌日も、その次の日も同じだった。私が玄関を出ると、少しして向かいの玄関が開く。家を出る時間を早めてみても変わらなかった。
ある晩、母に話してみた。
「今日もいたよ。向かいのおばあちゃん」
「お母さんが買い物に出るときもよ。ドアを開けたら、すぐ」
向かいの窓にはいつもレースのカーテンが引かれていたが、そこに人影が見えていた記憶はない。
「ドアを開ける前から、分かってるみたいだよね」
「さあ…音なのかしらね」
母は笑っていたが、それから玄関の鍵をゆっくり回すようになった。
父が出かけても、玄関は開かなかった
気になる違いに気づいたのは、父が釣りに出かけた日曜の朝だった。
父は大きな声で「いってきます」と言い、玄関を開けたまま車に荷物を積んでいた。
私と母は居間のカーテンのすき間から外を見ていたが、そのあいだ、向かいの玄関は一度も開かなかった。
「お父さんのときは出てこなかったね」
「本当ね。前にもそうだった気がする」
「どうして私たちのときだけなんだろう」
向かいの家のことを母と話すのは、これで2度目だった。
その夜、学生時代からの友人と電話をしていて、この話をしてみた。
「私や母が出るときはよく玄関が開くのに、父のときは出てこないんだよね」
「それ、お父さんには話した?」
「うん。でも、気にしすぎじゃないかって」
道端でおばあちゃんが近所の人と話していて、私に気づくと二人でこちらを見ることもある。
けれど、何かをされたことも、責められたことも一度もない。玄関が開く回数も、以前よりは減った。
それでも、どうしてこちらが出かけるタイミングが分かるのかは、今も分からない。
私は今も同じ家に住んでいる。
今朝も靴をはき、ドアノブに手をかけた瞬間、向かいから聞こえてくるはずの音を、つい待ってしまった。
そしてドアを開けると、道路の向かいで、玄関が静かに開いた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














