「はさみある?」レジに来た女性客のお願いを断った新人の私。だが、リーダーがベルトを見てすぐに対応できた理由
はさみを求めてきた女性客
大学3年生のころ、私はアパレルショップでアルバイトを始めたばかりでした。
レジも接客もまだ慣れず、分からないことがあるたび、その日のリーダーに確認しながら仕事を覚えていました。
その日もリーダーがそばについてくれていましたが、お昼どきに試着室のほうへ呼ばれ、私は一人でレジに立っていました。
そこへ、一人の女性客が足早にやってきました。
「ねえ、はさみある?」
突然のお願いに、私は少し緊張しました。
研修で教わった「刃物はお客様に貸してはいけない」という決まりを思い出したからです。
「申し訳ございません。はさみはお貸しできない決まりなんです」
「ちょっとだけでいいの。すぐ返すから」
女性はそう言いながら、腰に巻いていたベルトの端をつまみ、カウンター越しに差し出しました。
「これ、切りたいのよ」
新品のような、つやのある革のベルトでした。
私は思わず目を丸くしました。
(えっ、ベルトを切るの?)
何か事情があるのかもしれません。でも、買ったばかりに見えるベルトを切るなんて、本当にいいのでしょうか。
リーダーが気づいた、ベルトの小さな留め具
「すみません。やっぱり、はさみをお貸しすることはできなくて…」
私が繰り返すと、女性は困った顔になりました。
「あら、困ったわね。このままじゃちょっと…」
私はどうしたらいいか分からず、思い切ってリーダーを呼びました。
「リーダー、すみません!ちょっとお願いできますか?」
試着室のほうから戻ってきたリーダーに、女性がもう一度ベルトの端を見せました。
「さっきここで買ったんです。つけて帰ろうと思ったら、値札の留め具が取れなくて」
「こちらですね。すぐ切りますよ」
リーダーの肩越しにベルトをのぞき込んだ私は、そこでようやく気づきました。
ベルトの穴には、値札を固定する小さなプラスチックの留め具が通っていたのです。
女性が切りたかったのは、ベルトそのものではありません。
値札の留め具だったのです。
「えっ……あっ!」
思わず声が漏れました。
私はベルトを切るものだと思い込み、肝心の値札にはまったく気づいていなかったのです。
リーダーは引き出しからタグ用の小さなはさみを取り出し、留め具をぱちんと切りました。
「助かったわ。ありがとう!」
女性はうれしそうにベルトを締め直し、そのまま帰っていきました。
一方、私は恥ずかしさで顔が真っ赤になっていました。
「私、ずっとベルトを切るんだと思ってました……」
リーダーは笑いをこらえながら、私の肩をぽんとたたきました。
「あのお客様、ベルトじゃなくて、値札とお別れしたかったんだね」
その言葉に、私も思わず吹き出してしまいました。
はさみをお貸しできないという決まりは、間違っていません。
でも、何を切りたいのか、ひと言確認すればよかったのです。
あの日のことを思い出すと、今でも少し恥ずかしくなります。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














