「前の店長はやってくれた」回転寿司で手渡しを要求し続けた常連夫婦。新店長が伝えた方針に、妻が黙った瞬間
回転寿司なのに、あの夫婦だけは手渡し
10代のころ、私は回転寿司店で初めてのアルバイトをしていました。
ホールの仕事にも少しずつ慣れてきたころ、先輩から不思議な注意を受けたことがあります。
当時の店では、席のインターホンで注文を受け、番号のついた台に寿司をのせてレーンで流すのが基本でした。
ところが、ほぼ毎日来店する常連の夫婦だけは違いました。
「あそこのご夫婦の注文は、直接持っていってね。商品名もちゃんと言って。レーンで流すと怒られるから」
夫婦はいつも同じテーブル席に座り、注文した寿司を店員が手渡しするのを待っていました。
最初は私も、そういう決まりなのだと思って対応していました。しかし、少しずつ気になることが増えていったのです。
ある昼、注文の寿司を運び、商品名を伝えたときのことです。
「え?何て言ったの?」
私の声が小さかったようで、妻はため息をつきました。
「聞こえないわよ。もっとはっきり言ってちょうだい」
「すみません。こちら、〇〇です」
言い直すと、ようやく皿を受け取ってくれました。
さらに別の混雑した昼、私はうっかり夫婦の注文を番号つきの台にのせ、レーンへ流してしまいました。
すると、妻がテーブルから私を手招きしています。
「ちょっと。どうして流しちゃうの?」
「あっ、すみません!」
「手で持ってきてって、いつも言ってるでしょう?」
私は慌ててレーンから皿を取り、夫婦のテーブルまで運びました。
「申し訳ありませんでした」
「常連なんだから、それくらい覚えておいて」
妻は私が商品名を言い直すまで、皿を受け取ろうとしませんでした。
それ以来、どんなに忙しくても、夫婦の注文だけは一皿ずつ直接運ぶようにしていました。
ほかのお客様にはレーンで届けているのに、どうしてこの席だけ……。そんな疑問はありましたが、また注意されるのが嫌で、何も言えませんでした。
「前の店長はやってくれた」と言われた新店長
そんなある日、店に新しい店長がやって来ました。
先輩から夫婦への特別な対応について聞いた店長は、ある日の昼、夫婦が注文を済ませたころにテーブルへ向かいました。
私は近くのレーン脇で皿を片づけながら、そのやり取りを聞いていました。
「いつもありがとうございます。ひとつ、お伝えしたいことがありまして」
店長がそう切り出すと、妻は顔を上げました。
「今日から、ご注文のお寿司はレーンでお届けすることにしました」
「え?うちはいつも持ってきてもらってるんだけど」
「はい、そのことは聞いております。ただ、混み合う時間も含めて、皆様に同じ方法でお届けしたいんです」
妻は不満そうに箸を置きました。
「前の店長はやってくれた」
「そうだったんですね。申し訳ありませんが、これからはレーンでのお届けをお願いします」
店長は声を荒らげることもなく、落ち着いて答えました。
「でも、ずっとそうしてもらってたのよ?」
「はい。ただ、今後はこちらの方法で統一させてください」
妻は何か言いかけましたが、それ以上は続きませんでした。通路の向こうでは、家族連れのお客様もこちらを気にしている様子でした。
ちょうどそのとき、夫婦が先ほど注文した寿司が、番号つきの台にのってレーンを流れてきました。
店長はその皿を指し示し、穏やかに声をかけました。
「ご注文のお寿司が届きました」
夫婦は顔を見合わせましたが、もう手渡しを求めることはなく、黙って皿を取りました。
店長は私のほうへ小さくうなずき、厨房へ戻っていきました。
それまで当たり前のように続いていた特別対応が、店長の落ち着いた説明で終わったのです。
その日は夫婦の注文を気にして何度もテーブルへ向かう必要がなくなり、私はほかのお客様への対応に集中できました。
無理な要望に対しても、感情的にならず、店としての方針をきちんと伝える。あの店長の対応は、今でも印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














