「お会計がまだでございます」現金払いを拒んで店を出た男性。だが、レジに置き忘れた携帯電話を取りに戻った瞬間
現金しか使えない店のレジで
以前、私はうどん店でアルバイトをしていました。
店の支払い方法は現金のみで、入口の外にある看板にも、そのことが大きく書かれていました。
ある日の昼どき、食事を終えた男性客がレジへやって来ました。
私が伝票を受け取ると、男性は財布ではなく携帯電話を取り出し、画面をこちらに向けてきました。
「これ、ピッとやって」
「申し訳ありません。当店は現金のみなんです。すぐ隣のコンビニでお金をおろしていただくこともできますが…」
すると男性は、露骨に嫌そうな顔をしました。
「は?そんなの、どこに書いてあるんだよ」
「入口の看板にご案内しているんですが……」
私がそう答えている途中で、男性は携帯電話をレジ台に置きました。
そしてポケットから財布を取り出し、中を確かめると、顔をしかめて舌打ちをしたのです。
「携帯で払えないって、今どきありえないだろ」
「申し訳ございません……」
私が頭を下げると、男性は大きなため息をつきました。後ろに並んでいたお客さんも、気まずそうに目をそらしています。
「もういいわ。払えないんだから、しょうがないよな」
「あ、お客様、お会計が…」
声をかけましたが、男性は財布をポケットに戻すと、そのまま店を出ていってしまいました。
まさか本当に支払わずに帰ってしまうとは思わず、私はしばらく、出口を見つめていました。
置き忘れた携帯電話と、私の一言
気を取り直して後ろのお客さんの会計を済ませたとき、ふとレジ台の端に目が留まりました。
そこには、先ほどの男性が置いた携帯電話が残っていたのです。
「あれ…忘れていったんだ」
落とし物として預かろうと手に取った、その数分後でした。
店の扉が勢いよく開き、さっきの男性が息を切らして戻ってきたのです。
男性は慌てた様子でレジ台を見回すと、私の手元にある携帯電話に気づきました。
「あっ、それ!俺の携帯なんだけど」
「はい、こちらでお預かりしていました」
男性はほっとしたような顔で、携帯電話に手を伸ばしました。
けれど、私にはまだ伝えなければならないことがありました。
「お会計がまだでございます」
その瞬間、男性の手がぴたりと止まりました。
「……ああ、そうだったな、すいません」
男性は気まずそうに視線を落とします。
近くのテーブル席からも、何人かのお客さんがこちらを見ていました。
少しの沈黙のあと、男性がぼそりと言いました。
「……おろしてくる」
先ほどまでの強い口調とは違い、声は小さくなっていました。
男性は顔を赤くして、再び店の外へ。入口の向こうには、隣のコンビニへ向かって歩いていく姿が見えました。
しばらくして戻ってきた男性は、今度は携帯電話ではなく財布を開きました。
そして、黙って500円をレジ台に置いたのです。
私は代金を受け取り、携帯電話を差し出しました。
「ありがとうございます」
男性は私と目を合わせることなく、携帯電話を受け取ると、足早に店を出ていきました。
ようやく会計が済み、私はほっと息をつきました。
あれほど現金払いに文句を言っていた男性が、結局は現金を用意して戻ってきたのです。
入口の外にある「現金のみ」の看板を思い出しながら、私は思わず小さく笑ってしまいました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














