「優勝カップを電車に忘れたのはあんた」10年前の濡れ衣を、仲間の前で蒸し返す同期。テープを握って黙り込んだ
10年ぶりの母校の中庭で
母校の中庭で、同期の女性が10年前のカップの話を蒸し返しました
3月末の日曜の昼、母校である中学校の中庭に、合唱部の同期が集まりました。
桜の下の長机には、卒業の日に部で埋めたタイムカプセルの大きな木箱が置かれています。
もともとは20年後に開ける約束でしたが、校舎の建て替えに伴い、10年目の今年に開けることになったのです。
学校の職員が今朝、箱を掘り出し、外側の防水容器とビニールの包装を取り除いてくれました。
集まりの案内には『校舎とのお別れ会』と書かれていました。
タイムカプセルも開けると知ったのは、今朝、幹事役の同期から連絡を受けたときです。
幹事役の同期が学校の職員と箱を運んできたとき、一人の女性がすでに中庭で待っていました。
その女性は、私に言いました。
「優勝カップを電車に忘れたのはあんた。」
「私、同じ電車にいたもん。」
同期の女性は、あの朝に箱を詰めたのは自分だけだと言いました
10年前、卒業式の前の日。
市のホールに展示されていた優勝カップを、部長だった私が電車で学校へ持ち帰り、夕方、誰もいない音楽室の棚に戻しました。
ところが、翌朝にはカップが消えており、最後に持っていた私が疑われたのです。
顧問の先生は「傷ひとつでもつけたら全員で頭を下げに行く」と口癖のように言っていました。
同期の女性は箱に手を置き、幹事役の同期に向かって続けます。
「あの朝、箱を詰めたのは私だけ。」
「テープを巻いて、先生がすぐ埋めた。」
卒業式の朝、部員たちの手紙を集め、一人で箱詰めを担当したのは、その女性でした。
封をした箱は顧問の先生に渡され、その日のうちに中庭へ埋められたのです。
同期の女性は、なくした人に開けさせないでと言いました
「なくした人に、開けさせないで。」
「箱は私が、職員室へ返す。」
幹事役の同期も、10年前にその女性の話を信じた一人です。
あの日、私が乗った車両には、ほかの部員の姿はありませんでした。
ただ、その女性が別の車両に乗っていたのかどうか、今となっては確かめようもありません。
音楽室の棚にカップを戻すところを見た人もおらず、私の言い分を証明できるものはありませんでした。
みんなに囲まれて責められた春の怖さがよみがえり、私は目をそらしました。
「なくした人に、開けさせないで」
同期の女性はテープを握り、私は箱のふたを持ち上げました
それでも幹事役の同期は、はさみを私に差し出しました。
開けるのは元部長に、と学校から頼まれていたのです。
私が古いテープに慎重にはさみを入れると、同期の女性がさっと端をつかみました。
「手紙は、封をした私が配る。」
その女性はテープを引きはがして丸め、握りしめます。私は、ふたを持ち上げました。
同期の女性が一人で封をした箱から、消えた優勝カップが出てきました
手紙の束の上に、高さ30センチほどの銀色のカップが置かれていました。
取っ手が1本、内側へ曲がっています。学校にひとつしかない、あの年の優勝カップです。
「あなたが封をした箱から、出てきた。」
電車に置き忘れたはずのカップが、卒業式の日に埋めた箱から出てきたのです。
しかも、箱に手紙を詰め、テープで封をしたのは同期の女性だけ。
本人が、先ほどそう話したばかりでした。
箱は封をされた状態で顧問の先生に渡され、その日のうちに埋められています。
外側は防水容器で保護されており、学校の職員が掘り出したときも、木箱の封はそのままだったそうです。
少なくとも、私が電車にカップを忘れたという話は、成り立たなくなりました。
同期の女性の手の中で、丸めたテープがつぶれました
「先生が入れたに決まってる!」
「テープは、今日まで切れていなかった。」
幹事役の同期が口元に手を当て、女性を見ました。
先生が入れたという可能性も、その女性自身が箱を一人で詰めて封をしたと話している以上、説明がつきません。
同期の女性の手の中で、丸めたテープがくしゃりとつぶれました。
周囲の視線が集まるなか、女性は何度も口を開きかけましたが、言葉が出てきません。
しばらくして、うつむいたまま小さな声で話し始めました。
「落として、取っ手を曲げたの。怒られるのが、怖くて。20年は、だれも開けないと思った」
卒業式の朝、音楽室にあったカップを持ち出した際、誤って落としてしまったのだそうです。
壊したことを知られるのが怖くなり、手紙を詰めていた木箱に隠したと打ち明けました。
幹事役の同期が、私に小さく頭を下げました。
10年間、私に向けられていた疑いがようやく晴れました。カップは、隠した本人が責任を持って職員室へ返しに行くことになりました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














