「夕方はいつも家だよね」生活時間を把握する町内会長→薄暗い道に現れた自転車の影にゾッとした夜
やけに詳しい会長
戸建てに越してきて三年目のことだ。町内会長は会費集めにも集まりにも熱心で、こまめに家々を回る人だった。
ありがたい反面、少し距離が近すぎるようにも感じていた。
町の行事のたびに顔を出し、誰がいつ引っ越してきて、どの家に子どもが何人いるのか、驚くほどよく知っている。
物知りな人だと、そのときは思っていた。
ある日、道でばったり会長と会った。
ただの世間話のつもりだった。
ところが会長は、こともなげにこう言った。
「夕方はいつも家だよね」
どきりとした。
たしかに私は夕方に在宅していることが多い。けれど、それを本人に話した覚えはなかった。
「前に電話で聞いたでしょう。何時なら家にいるかって」
言われてみれば、以前そんな電話があった。留守がちな家の会費を集めやすいように、と。あのとき何気なく答えた在宅の時間を、会長はしっかり覚えていたのだ。
それどころか、私が朝に出勤し、昼はいないことまで、なぜか見透かしているようだった。
薄暗い道に立つ自転車
それからというもの、夕暮れの窓の外が、やけに気になるようになった。
薄暗くなる頃、家の前の道を自転車でゆっくり通る人影がある。
行っては戻り、また通り過ぎる。
よその家の前は素通りするのに、私の家の前では、決まって少しだけ止まるのだ。
顔は影になって見えない。ただ、こちらの様子をじっとうかがっているのだけは伝わってきた。
「あの、どなたですか?」
窓を細く開けて声をかけても、返事はない。
自転車はすっと薄闇に紛れていった。翌日も、その次の日も、同じ時刻に影は現れた。雨の日でさえ、合羽姿でゆっくりと家の前を過ぎていく。
もう偶然とは思えなかった。
怖くなって、私は近所の人に相談した。
すると、同じ影を見たという人が何人もいた。皆で見慣れない人がうろついていると警戒していた矢先、その正体が知れた。
薄暗い道に立っていた自転車の主は、ほかでもない町内会長だった。
「みんなの家をちゃんと見て回ってるんだ」
そう誇らしげに話していたと聞いて、私は鳥肌が立った。
各家に電話で在宅時間を尋ね、その時間を狙って家の前を回る。会長は町の全員の生活リズムを、頭の中にすっかり入れている。
「防犯のためだよ」
会長はそう繰り返していたという。けれど、善意の顔をして町中の留守を知り尽くしている人がいる。
本人は親切のつもりなのだろう。だからこそ逃げ場がないように思えて、私は今も夕暮れになると、カーテンをきつく閉めてしまう。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














