「座席を倒しただけなのに」新幹線で前の席を拳で叩いた男性。気まずい空気が続いた車内
途中の駅から、前の席に人が入った
旅行の帰り、私は友達と朝早い新幹線に乗っていました。
東京に着くのは仕事が始まる前の時間で、車内にはスーツ姿の人が多く、静かな空気が流れていました。
私は2人がけの通路側に座り、友達は窓側です。荷物は棚の上に置き、私は文庫本を開いていました。
通路を挟んだ向かい側には、50代くらいの男性が座っていました。ひざの上に書類を広げ、ときどき赤いペンで線を引いています。
男性の足元には、空の弁当箱やボトルをまとめたらしい袋が置かれていました。少し前の座席側へ寄っていましたが、そのときは特に気に留めませんでした。
途中の駅で乗客が増え、男性の前の席にも若い会社員らしい人が座りました。
上着を脱いでひざに置き、しばらくすると座席のリクライニングを倒します。
背もたれが大きく後ろへ動き、その下に寄っていた袋が押されました。中でボトルが転がるような音がします。
その瞬間、私は本から顔を上げました。
大きな音がしたのは、一度だけだった
男性が短く舌打ちをしました。
周囲にいた何人かも顔を上げましたが、誰も声はかけません。
男性は押された袋を引き寄せると、前の座席の背もたれを拳で一度だけ強く叩きました。
ドン、と車内に大きな音が響きます。
前の会社員の肩が一瞬動きました。しかし振り返ることはなく、倒した座席を戻すこともしませんでした。
男性もそれ以上何かをすることはありません。袋を自分の足元へ置き直し、また書類に目を落としました。
友達がこちらを見ました。
「…今の、見た?」
私は小さくうなずきました。
それから先、二人の間で言葉が交わされることはありませんでした。
車内はまた静かになりましたが、私はなかなか本の内容が頭に入りませんでした。
東京に着くまで、言い合いにはならなかった
やがて東京に着くと、前の会社員が先に席を立ちました。
男性は少し遅れて袋を手に取り、通路へ出ます。二人の距離が近くなったのは、その数秒だけでした。
それでも、どちらからも言葉はありませんでした。
私たちも人の流れに続いてホームへ降りました。
歩きながら、友達が小さな声で言います。
「結局、何も言わなかったね」
「うん」
座席を叩いたことには驚きましたが、その後に怒鳴り声も言い争いもなかったことが、かえって印象に残りました。
少し先では、あの男性もほかの乗客に交じって改札へ向かっていました。
朝の駅を歩くその姿は、もう周囲の人と見分けがつきませんでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














