「俺は親族なんだよ」ケーキ入刀の直前に前へ出た男性。スタッフが注意しても戻らない状況に苦笑い
ケーキの前に、親族の男性が出てきた
従兄弟の披露宴で、私は親族席の端に座っていた。
食事も進み、会場の照明が少し落ちると、司会からケーキ入刀の案内があった。新郎新婦が大きなケーキの前へ移動し、周囲の人たちもスマートフォンを手にし始めた。
そのとき、新郎側の親戚だという男性が席を立った。
男性はスマートフォンを高く持ち、新郎新婦のすぐ近くまで歩いていく。最初は写真を撮るために少し前へ出ただけなのだと思った。
ところが、その場所ではほかの席から新郎新婦が見えにくくなる。すぐに会場のスタッフが近づき、男性へ声をかけた。
「恐れ入ります。こちらからお願いいたします」
少し離れた撮影できる場所を示していたが、男性は動かなかった。
「俺は親族なんだよ」
そう言うと、もう一度スマートフォンを構えた。
スタッフが再び横から案内しようとすると、男性は腕を振るようにしてその手を避けた。
司会はケーキ入刀の合図を出せず、新郎新婦もいったんナイフから手を離した。
二人はケーキの前に立ったまま、困ったように笑っていた。
スタッフは男性を強く引き離すことはせず、周囲の席を指しながら何度か移動をお願いしていた。
けれど男性は、そのたびに少し位置を変えては写真を撮る。それが続いた。
ようやく男性が席へ戻り、司会があらためて新郎新婦へ声をかけたとき、最初に止まってから五分ほどが過ぎていた。
会場に拍手が起き、何事もなかったようにケーキにナイフが入った。
私はその間、ずっと席に座ったままだった。
一年後、映像に残っていた場面
翌年、従兄弟の家へ行ったとき、結婚式の記録映像を見ることになった。
ケーキ入刀の場面になると、画面の端から見覚えのある背中が入ってきた。
あの男性だった。
音声では会話まではほとんど聞き取れなかったが、スタッフが何度も近づき、男性が場所を変えながら撮影している様子は残っていた。
「ここ、結構長かったんだよな」
従兄弟がリモコンを持ったまま言った。
新婦も画面を見ながら、小さく笑った。
「あのときは、どうしていいか分からなくて笑ってるしかなかった」
それから少し間を置いて、こう続けた。
「親族の誰かが声をかけてくれたらとは思ったけどね」
私は何も言えなかった。
スタッフに任せればいいと思い、自分まで立つ必要はないと考えていたからだ。
映像だけを見れば、少し長い撮影時間に見えるだけかもしれない。それでも、その場にいた私には、進行が止まったあの五分がはっきり残っている。
従兄弟は映像を止めることなく、そのまま続きを再生していた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














