「私は家族じゃないから」母の葬儀で親族席に座っていた女性。最後まで分からなかった母との関係
親族席の端に、知らない人が座っていた
母の葬儀は、身内だけの十数人で行う予定だった。
前日の通夜の途中、見知らぬ高齢の女性が会場へ入ってきた。受付で母の知り合いだと話したらしく、そのまま遺影の前まで来て静かに手を合わせていた。
私が声をかけると、女性は母の名前を呼んだ。
「昔から知ってるのよ。いい人だったからね」
ただ、どこで知り合ったのか尋ねても、「ずっと前からよ」と繰り返すばかりだった。
母には私たち家族が知らない付き合いもあった。わざわざ通夜に来てくれた人を問い詰めるのもためらわれ、その日は結局、それ以上聞けなかった。
ところが翌朝、控室に入ってきた従兄が廊下の方を指した。
「昨日の人、今日も来てるよ」
「え、今日も?」
式場をのぞくと、女性は親族席のいちばん端に座っていた。黒い上着を着て、手には数珠を持っている。
読経が始まり、焼香の順番になると、女性も親族たちのあとに静かに列へ並んだ。
席へ戻ると、伯母が小声で尋ねてきた。
「あの方、どちらのご親戚?」
「親戚じゃないの。母の知り合いみたいなんだけど、私も分からなくて」
伯母は少し驚いた顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
私も気にはなっていた。それでも、母の知り合いだということまで疑う理由はなく、式はそのまま進んでいった。
写真撮影の案内で、初めて足を止めた
式が終わると、祭壇の前で親族の集合写真を撮ることになった。
斎場のスタッフが、会場と廊下にいる人たちへ声をかけて回る。
「親族の皆様、写真撮影ですので前へお集まりください」
一度目ではまだ動かない人も多く、スタッフは片づけをしながら二度、三度と同じ案内をした。
その声に合わせるように、例の女性も席から立ち上がった。
私は一瞬迷ったあと、スタッフのところへ行った。
「あの、あちらの方は親族ではないんです。母の知り合いの方で」
「承知しました。ありがとうございます」
ところがスタッフが声をかけるより先に、女性は私たちの様子に気づいたようだった。
「私は家族じゃないから。ここで見てるよ」
そう言って自分から一歩下がり、壁際へ移った。
それまで当然のように親族席に座り、焼香にも並んでいた人だったので、その一言だけが妙にはっきり耳に残った。
写真撮影が終わったあと、私はもう一度だけ女性のところへ行った。
「母とは、どちらで知り合ったんですか?」
女性は少し考えるようにしてから、また同じように答えた。
「昔からよ。本当にいい人だったね」
それ以上のことは、最後まで分からなかった。
しばらくして女性は「じゃあね」と頭を下げ、一人で会館を出ていった。
後日届いた集合写真には、当然ながら親族だけが写っている。
写真を見ながら、弟がぽつりと言った。
「結局、あの人は母さんの何を知ってたんだろうな」
私にも答えは分からなかった。
ただ、母が私たちの知らないところでも誰かの記憶に残っていたことだけは、確かなのだと思った。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














