「ちょっと。人の足、踏んだだろ」混んだバスで責められた女性。だが、隣に立っていた私が声をかけた理由
前の席から飛んできた声
春の夕方、会社帰りに乗った路線バスは、立つ場所を探すのも難しいほど混んでいました。
私は車内の真ん中あたりの通路でつり革を握っていました。左手には座席があり、50代くらいの男性が座っています。
いくつ目かの停留所で、紙袋を2つ抱えた女性が乗ってきました。袋の口から長ねぎの先がのぞいていて、買い物帰りのようでした。
女性は「すみません」と言いながら人の間を抜け、私の右隣まで来ました。
座っている男性の足が少し通路側に出ていたため、女性はその足を避けるようにして立ち止まりました。
その直後です。
男性が顔を上げ、女性に向かって声を荒らげました。
「ちょっと。人の足、踏んだだろ」
女性はびくっとして、自分の足元を見ました。
「えっ、私ですか?」
「そうだよ。今、踏んだじゃないか」
「すみません…でも、踏んだ覚えがなくて」
「混んでるんだから、ちゃんと足元見てくれよ」
女性は紙袋を抱え直しながら、「もし当たっていたなら、すみません」と小さな声で謝りました。
すぐ横にいた私には見えていた
私は2人のすぐ横にいました。
女性が私の隣に来たところも、そのあと男性の足を避けて立ったところも見ています。少なくとも、私が見ていた範囲では、女性の靴が男性の足に触れたようには見えませんでした。
それでも男性は納得していない様子で、もう一度声を上げました。
「だから、人の足を踏んだだろって言ってるんだよ」
女性は困ったように男性と自分の足元を交互に見ました。
「でも…本当に踏みましたか?」
さっきまで聞こえていた乗客同士の話し声も小さくなり、車内には気まずい空気が流れていました。
私も声をかけようと思いながら、知らない人同士の言い争いに入ることをためらっていました。
そのときバスが停留所に着き、車内放送が流れました。
「車内が混み合っております。お荷物にご注意いただき、譲り合ってご乗車ください」
近くにいた学生が少し後ろへ下がり、年配の女性も体を寄せて通路に余裕を作りました。
私も足元に置いていたかばんを持ち上げ、女性に声をかけました。
「よかったら、ここに置きますか?」
「あ…いいんですか? ありがとうございます」
女性は少しほっとした顔で、紙袋を空いた足元に置きました。
そこで私は、座っている男性に声をかけました。
「あの、私ずっと横にいましたけど…踏んでなかったと思いますよ。ここに来たときも、足を避けてました」
男性は一瞬、私の顔を見ました。
「…そうですか」
さっきまでの勢いはなく、それだけ言うと窓の外へ顔を向けました。
女性も言い返すことはなく、紙袋の持ち手を握り直しました。
降りる前に言われたこと
その後、車内では特に何も起きませんでした。
しばらくして私が降りる停留所が近づき、つり革から手を離すと、隣の女性が小さな声で話しかけてきました。
「さっき、ありがとうございました」
「いえ。ずっと横にいたので」
女性は少し迷ってから、苦笑いするように言いました。
「あんなふうに言われたら、私、本当に踏んだのかなって分からなくなっちゃって……」
「私には踏んでいるようには見えませんでしたよ」
そう伝えると、女性は「ありがとうございます」ともう一度頭を下げました。
混んだ車内では、足や荷物が思いがけず近づくこともあります。
ただ、強い口調で何度も責められると、自分に心当たりがなくても不安になってしまうことがあるのだと感じました。
バスを降りたあと、私は「もう少し早く声をかけてもよかったかもしれない」と、しばらくあの場面を思い返していました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














