「10パーセントって何だよ」鮮魚売り場で値引きに文句を言い、何も買わずに去った客。だが、戻ってきたときに見た光景
シールを貼る手元を、のぞき込む男性客
スーパーの鮮魚売り場でアルバイトをしていたころの話です。
閉店が近づくと、売り場では値引きシールを貼る作業が始まります。
貼る時間と割引率は店のルールで決まっていて、アルバイトの私が勝手に変えることはできません。
ある夜、いつものように切り身のパックにシールを貼っていると、背後に人の気配がしました。
振り返ると、男性客が私の肩越しに手元をのぞき込んでいます。貼り終えたパックを見た男性は、鼻で笑うように言いました。
「これだけ?」
私が軽く会釈をして次のパックに手を伸ばすと、男性は急に声を大きくしました。
「10パーセントって何だよ。もっと引いたっていいだろ」
近くのお客さんにも聞こえるほどの声でした。私は作業の手を止め、男性に向き直りました。
「申し訳ありません。割引率は店の決まりなので、私では変えられないんです」
「どうせ売れ残るんだろ。だったらもっと引けよ」
男性は棚のパックを指しながら、納得できない様子です。
確かに閉店が近づけば、少しでも安く買いたいと思う気持ちは分かります。ですが、私の判断で値引きするわけにはいきません。
もう一度頭を下げると、男性は聞こえよがしに舌打ちをし、何も買わずに通路の奥へ歩いていきました。
私は困った気持ちのまま、再びシール貼りの作業に戻りました。
女性客のかごと、空になった棚
男性が去ってまもなく、かごを腕にかけた女性客が売り場にやってきました。
女性客は棚の前で足を止め、値引きシールの貼られたパックを手に取ると、うれしそうに表情を緩めました。
「ちょうどよかった」
そして私のほうを見ると、にっこり笑って話しかけてくれました。
「今夜は何にしようか迷ってたの。これにするわ」
「ありがとうございます」
女性客がパックをかごに入れると、近くにいたほかのお客さんたちも棚をのぞき始めました。
ひとつ、またひとつとパックが手に取られていきます。
先ほどまで並んでいた商品が次々となくなり、気がつけば棚はすっかり空になっていました。
その少しあと、通路の奥から先ほどの男性客が戻ってきたのです。
男性は棚の前で立ち止まり、何も残っていないのを見て、しばらくその場を動きませんでした。
そして、少し先にいた女性客のほうへ目を向けました。
女性客のかごには、先ほど男性が値引き率に文句をつけていた、あのパックが入っています。
「あれ、さっきの…」
男性は小さくつぶやくと、もう一度空の棚を見ました。そして、私のほうへ視線を向けます。
私は男性に向き直り、丁寧に伝えました。
「あいにくですが、本日の分はすべて売り切れました」
男性は顔を赤くしたまま、何も言わずに背を向け、売り場を去っていきました。
私は空になった棚を拭きながら、思わず小さく笑いました。
同じ10パーセント引きでも、不満に思う人がいれば、「ちょうどよかった」と喜んで買っていく人もいるのです。
さっきまでの嫌な気持ちが、少し軽くなった出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














