「どいて。紙詰まりはあなたのせいよ」館長まで連れてきて、始末書を迫る先輩司書。だが、私が手に載せた物で沈黙
紙詰まりの音が鳴る作業室
先輩は館長の前で、紙詰まりを私のせいにしました
書庫から本を1冊抱えて上がると、作業室のコピー機が止まっていました。短い警告の音が、何度もくり返しています。紙詰まりです。
画面には、手差しトレーで紙が詰まったことを知らせる表示が出ていました。私は先ほど通常の給紙トレーを使っていたため、不思議に思いました。
のぞこうとしたところへ、先輩司書が館長を連れて入ってきました。
「どいて。紙詰まりはあなたのせいよ。」
10月の平日の午後、市立図書館の2階です。私は入って2年目の司書で、先輩は本の取り寄せの担当です。
「私は書庫に行っていました。」
先輩は、3時からこの電話で話していたと言いました
先輩は、作業台の端の黒い電話機に手を置きました。
「3時からこの電話でずっと話してたの。」
「コピー機には、近寄ってもいない。」
出版社と取り寄せの話をして、終わってすぐ館長を呼びに行ったそうです。3時前にコピー機を使ったのは私で、そのあとは誰も来ていない、と言うのです。
けれど私が刷った分は、最後の一枚まで出て、コピー機は静かでした。手差しトレーも使っていません。私が書庫に行ったあと、誰かが操作した可能性があります。
先輩は、この電話は自分専用だと言い切りました
先輩は受話器を取り上げ、館長に見せるように胸の前で持ちました。
「この電話は私専用。」
「取り寄せは全部、この電話でやるの。」
取り寄せを任されて20年近く、館長の信頼も厚い人です。
館長の信頼が厚い先輩
担当を外すと脅され、私は本を抱えてうつむきました
「業者を呼ぶなら、始末書はあなたね。」
「おはなし会の担当は外してもらうわ。」
来月のおはなし会は、私が初めてひとりで任された仕事です。先輩には館長への影響力もあります。言い返せば、担当を外されるかもしれません。私は本を抱えたまま、うつむきました。
先輩は受話器を耳に当て、業者は私が呼ぶと言って、ボタンを押しはじめました。
束ねた電話線を見せ、どこにも通じない電話だと示しました
このままでは、私が紙詰まりを起こしたことにされてしまいます。先輩が電話をかけようとした、そのときでした。
私は抱えていた本を作業台に置き、電話機の後ろまで進みました。垂れていた電話線を手繰り寄せると、先は手のひらほどの輪に巻いて、輪ゴムで留めたまま。その束を手のひらに載せ、先輩の前に差し出しました。
「この電話はどこにも通じません。」
束の下で、小さな四角いプラグが宙に揺れています。
前日の配線工事で、回線の切り替えに伴い、この電話の差し込み口は撤去されました。電話機は回収待ちのため、台に残されていたのです。
工事に立ち会ったのは私ひとりでした。先輩は前日休みだったため、回線が撤去されたことを知らなかったようです。輪ゴムも、工事のときのままでした。
先輩の手が、受話器ごと胸の下へ下がりました。眉を寄せ、束から目を離せずにいます。
先輩は受話器を台に戻そうとして、二度置き損ねました
「切ってから、足に引っかけたわ!」
「差し込み口が、もうないんです。」
前日の工事で、撤去されたままです。先輩が3時からこの電話で話していたという説明は、成り立ちません。
館長は先輩を見たまま、『取り寄せの電話、この1か月ぶんの記録を見せてください』と言いました。さらに、コピー機の利用履歴も確認することになりました。
電話の説明が嘘だったからといって、紙詰まりの原因まで判明したわけではありません。しかし、私が起こしたと決めつける根拠もありませんでした。
始末書の話は、それきり出ません。おはなし会の担当も、そのままです。
先輩は受話器を台に戻そうとして、二度、置き損ねました。コピー機が、また短くピーッと鳴りました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














