「昨夜のスープは俺が冷蔵庫に入れた。仕込みを全部やり直せ」と新人に命じる料理長。厨房に広がった静けさ
朝の厨房に響いた、料理長の大きな声
料理長は、傷んだスープを新人のせいにしました
開店前の洋食店の厨房。料理長が腕組みで調理台の前に立っていました。
厨房には、すっぱいにおいが漂っています。傷んだスープはすでに廃棄され、空になった寸胴だけが残っていました。
転職してこの店に入って二週間の私は、料理長の向かいに立ちすくんでいました。
「昨夜のスープは俺が冷蔵庫に入れた。仕込みを全部やり直せ。」
「寸胴ごと、冷蔵庫に入れた!」
『昨日は大口の予約に備えて、倉庫から出した特大の寸胴で仕込んだんだ』。
冷蔵庫に入れても傷んだのは、新人の仕込みが甘かったからだ。
料理長は、そう決めつけています。
「傷ませたのは、お前の仕込みだ!」
閉店後の厨房には、料理長だけが残っていました
昨夜、私は料理長に『先に上がれ』と言われて、先に店を出ました。
閉店後の厨房には、料理長がひとり残ったはずです。
今朝、私が店に着いたとき、寸胴はもう調理台にありました。
けれど、そう言っても『出したのはお前だ』と返されるだけです。
昨夜、寸胴を氷水につけ、スープをかき混ぜながら粗熱を取ったのは私です。
けれど、それを証明できる物は何もありません。
昨夜を知る人は、料理長しかいません。
新人の私の言葉より、長年この店を仕切る料理長の言葉のほうが通ります。
私は思い切って、冷蔵庫の棚に目を向けながら、小声で言いかけました。『冷蔵庫の中を見せて……』。
料理長は、すかさず遮りました。
「疑うのか。棚は触ってない!」
「冷蔵庫も寸胴も、1つだけだ。」
私は口を一文字に結んで、うつむくしかありませんでした。
私が料理長に頼んだ、ひとつのお願い
料理長が入れようとした寸胴は、棚板にぶつかりました
料理長が声を荒らげる間も、私にはひとつ気にかかることがありました。
毎朝あの冷蔵庫の中身を出し入れしているのは私です。
私は顔を上げ、震える声で頼みました。
「冷蔵庫に入れて、見せてください。」
ここで断れば、嘘だと認めるようなもの。料理長は、意地になって、空になった寸胴を両手で持ち上げ、冷蔵庫の扉を開けました。
棚の間へ差し込もうとすると、寸胴の縁が棚板にぶつかり、ごんと鳴りました。向きを変えても、寸胴は入りません。
料理長は言い返せず、シンクで寸胴を洗い始めました
料理長の眉が寄り、額には冷や汗がにじんでいます。口の端も、引きつっていました。
「棚を外せば入る!」
私は料理長の目をまっすぐ見て、はっきり言いました。
「棚が同じなら、昨夜も入りません。」
冷蔵庫も寸胴も1つだけ、棚にも触っていない。逃げ道は、料理長自身の言葉でふさがれていました。
『閉店後に入れようとしたが、入らなかった。面倒で、調理台に置いて帰った。朝に傷んでいたから、お前のせいにした』
料理長は、かすれた声で続けました。
『仕込みは、俺が全部やり直す』
料理長は寸胴をシンクに下ろして蛇口をひねり、無言で洗い始めました。水の音だけが響く厨房に、静けさが広がりました。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














