「玄関のポストを、開けてたのか?」郵便物を覗く友人。理解出来ない主張に引越しを決意
先回りする友人
付き合いの長い友人がひとり、妙なことを言うようになった。
何も話していないのに、私の週末の予定や帰宅の時間を、先回りして言い当ててくるのだ。
「来週、実家に帰るんだろう」「あの店、予約したんだって」会うたびに、そんな調子だった。
どれも誰にも話していないことばかりだった。
何度か理由を尋ねてみた。そのたびに、彼は口の端をわずかに上げるだけで、のらりくらりとはぐらかす。
答えらしい答えは、一度も返ってこなかった。
偶然が続いているのだと、自分に言い聞かせていた。長い付き合いの友人を疑うのは、どこか気が引けたからだ。
帰宅した時間
その日は予定が流れて、いつもよりずっと早い時間に帰宅した。
ふだんなら、まだ職場のデスクに向かっている時刻だった。
アパートの一階、集合ポストが並ぶ壁の前に、見覚えのある背中があった。
私の部屋の番号の扉が開いていて、中の封筒を一枚ずつ引き出している。
近づいていくと、それは間違いなくあの友人だった。
私に気づいても、慌てるどころか、悪びれる様子すらない。
(玄関のポストを、開けてたのか?)
彼は封筒を手にしたまま、落ち着いた声で言った。
「これ、そろそろ締切だよ。払っておきなよ」
咎められているとは、まるで思っていない顔だった。
むしろ親切をしてやっている、という声色さえあった。
迷わなかった理由
その表情を見て、話し合っても無駄だと分かった。
本人の中では、これは友情のつもりなのだ。
悪いことをしている自覚がまるでない相手には、こちらの理屈はどこまでも届かない。
私はその場で、引っ越しを決めた。
腹を立てるより先に、この人との距離をゼロにすることだけを考えていた。
数日で手続きを済ませ、連絡先も変えた。行き先は、彼にも誰にも伝えなかった。
説明はいらないと思った。理由をわざわざ話したところで、また先回りされて終わるだけだ。
引っ越してからは、ポストを開けるたびに感じていた小さな緊張が、すっと消えていった。もう誰にも、私の一日を先読みされることはない。
迷わず決めたことを、後悔してはいない。得体の知れないものに怯えて縮こまるより、自分の暮らしを守る線を自分で引くほうが、ずっと楽だった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














