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2026.08.19(Wed)

「持ち帰りはマナー違反ですよ」朝食会場で食べ物を持ち帰ろうとした客。だが、他の客が声をかけた結果

「持ち帰りはマナー違反ですよ」朝食会場で食べ物を持ち帰ろうとした客。だが、他の客が声をかけた結果

2泊3日の旅、最後の朝食会場で

温泉旅館の朝食バイキングは、旅の締めくくりのような時間だと思う。

昨年の秋に出かけた2泊3日の国内旅行でも、最終日の朝くらいはゆっくり食べようと決めていた。

会場はチェックアウト前の人でそれなりに混んでいて、席と席の間隔も近かった。

隣のテーブルに、四十代くらいの男性が座っていた。

トレーには、大皿から取り分けたゆで卵と果物が山のように積まれている。

ずいぶん食べる人だと思ったけれど、旅先の朝はそんなものだと思い直した。

男性が足元のバッグに手を伸ばしたのは、そのすぐあとだった。

出てきたのは、大きめの保存袋だった。

男性は周りをキョロキョロと見回し、確かめるように一拍置いてから、皿の上のものを袋へ移し始めた。

卵が転がり、果物が重なる。

私は目を疑った。食べ切れなかった分をそっと包む、という手つきではない。

最初から持ち帰るつもりで来た人の動きに見えた。それでも私は何も言えず、味噌汁の椀を持ったまま固まっていた。

関わりたくない、という気持ちのほうが先に立ってしまった。

気づいたのは、私の反対側、近くの席にいた人だった。声をかけるかどうか迷うような間があって、それからテーブル越しに、静かな声が届いた。

「あの、すみません」

「持ち帰りはマナー違反ですよ」

とがめるというより、言いにくいことをようやく言った人の声だった。

大きな声のあと、男性が見せた顔

男性の手が止まった。顔を上げ、袋を握ったまま口を開く。

返ってきたのは、思いがけないほど大きな声だった。

「お金を払ってるんだから、いいだろ」

「文句言うな」

声を荒らげた瞬間、会場の音が消えた。

食器の触れる音も、話し声も止まって、テーブルの列のあちこちから視線が集まる。

誰も男性を責めはしなかった。ただ静かに、見ていただけだ。

その静けさに、男性の表情が変わった。

言い返した相手を見ることも、周りを見渡すこともできないまま、袋を胸のあたりに抱えて立ち上がる。皿を戻すことも、椅子を入れることもなく、うつむいたまま足早に出口へ向かっていった。

入れ替わりに来たスタッフが、空いた大皿を下げ、棚の器を何事もなかったように並べ直していく。

バイキングは、居合わせた人が同じ場所から取り分ける食事だ。

だからこそ、ひとりの振る舞いで空気ごと変わってしまう。

旅の最後の朝に残ったのは、正直に言えば少し苦い後味だった。

それでも、あのとき静かに声をかけた人がいたから、私は嫌な記憶だけを持ち帰らずに済んだ。私が言えなかった一言を、代わりに言ってくれた人がいた。

※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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