「表紙は明るい色で、雨の場面があって」本を探しに来た客。だが、曖昧な情報しかないのに、店員が誠実に対応した結果
覚えていた題名では、どこを探しても見つからなかった
書店に勤めていた頃の話です。夕方、レジの列が途切れたころ、一人の男性のお客さまがカウンターに来られました。
少し困ったような表情で、こう尋ねられました。
「テレビで紹介されていた本を探しているんです。たしか、こんな感じの題名だったと思うんですが……」
教えていただいた言葉を店舗の検索システムに入れてみましたが、それらしい本は出てきません。言葉を少し変えて探してみても見つからず、お客さまも首をかしげていました。
「すみません、題名を勘違いしているかもしれません」
そこで私は、題名はいったん置いておき、覚えていることを聞いてみることにしました。
「表紙や、紹介されていた内容で何か覚えていることはありますか?」
お客さまはしばらく考えてから、「明るい色の表紙だったと思います」と答えました。
さらに話を聞くと、最近テレビで紹介されていた小説で、雨の中で誰かを待つような場面が取り上げられていたこと、紹介した人が「最後のほうで泣いた」と話していたことを覚えているそうです。
「あと、帯に大きな文字があった気がします」
そこまで聞いて、私は最近よく売れている一冊を思い出しました。新刊や話題作が並ぶ平台へ行き、何冊か表紙を確認します。
その中に、お客さまの話とよく似た一冊がありました。
表紙を見た瞬間、客の表情が変わった
「もしかして、こちらではありませんか?」
私が本を差し出すと、お客さまは表紙を見たまま数秒黙りました。そして帯まで確認すると、急に顔を明るくしました。
「あっ、これです!まさにこれです」
もう一度題名を見てから、お客さまは少し恥ずかしそうに笑いました。
「私、勝手に別の題名で覚えてました。そりゃ見つからないですよね」
私も思わず笑ってしまいました。
「いえ、内容をいろいろ教えていただけたので、思い当たりました」
「いやあ、よく分かりましたね。助かりました」
お客さまは安心したようにもう一度表紙を眺め、その本をレジへ持っていきました。
会計を終えると、「今度から気になった本は、ちゃんと題名をメモしておきます」と笑って帰っていかれました。
その後も何度か来店され、本を探すときに声をかけてくださることがありました。
題名が分からなくても、表紙の色や覚えている場面など、少しずつ話を聞いていけば一冊にたどり着けることがあります。書店員として働いていた中でも、特に印象に残っている出来事です。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














