「俺にくれよ。形見にしてやるから」親戚の非常識な冗談。だが、妻の一言で空気が一変
妻が言い切った瞬間、座敷の空気が変わった
数年前のお盆、実家の法事に親戚が集まったときのことです。座敷には膳が並び、久しぶりに顔を合わせた親戚たちが、それぞれ近況を話していました。
当時50代半ばだった私は、少し前に買い替えた腕時計をしていました。妻が贈ってくれたもので、気に入って普段からよく身につけていたものです。
すると、斜め向かいに座っていた遠縁のおじさんが、私の手元を見て声をかけてきました。
「おっ、それ新しい時計か?なかなかいいのしてるじゃないか」
「ああ、妻にもらったんですよ」
そう答えると、おじさんは時計をもう一度見て、ニヤッと笑いました。
「じゃあさ、お前が使わなくなったら俺にくれよ。形見にしてやるから」
一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。
「……形見?」
私が聞き返すと、おじさんは冗談を続けるような調子で笑います。
「そうそう。いい時計なんだから、俺がもらって使ってやるよ」
本人としては、その場を笑わせるつもりだったのかもしれません。ただ、まだ元気にしている人間を前に「形見」と言われても、私は笑えませんでした。
「いや、それは……」
どう返そうか迷っているうちに、隣にいた妻が箸を置きました。
「ちょっと待ってください」
いつもより少し低い声でした。
おじさんが「ん?」と妻を見ると、妻は私の腕時計に目をやってから、はっきりと言いました。
「主人はまだ50代です。形見の話をするには、さすがに早すぎますよ」
座敷が静かになりました。
妻はさらに、少し困ったように笑って続けました。
「それに、その時計は私が贈ったものなんです。まだまだ主人に使ってもらうつもりですから」
怒鳴ったわけでも、責め立てたわけでもありません。それでも、妻が本気で嫌がっていることは十分に伝わる言い方でした。
親戚から飛んできた言葉に、おじさんも苦笑い
数秒の沈黙のあと、近くにいた親戚の一人が吹き出しました。
「そりゃそうだ。まだ元気にここで飯食ってるじゃないか」
別の人も笑いながら続けます。
「形見って、お前、気が早すぎるぞ」
「本人の前で言うことじゃないわ」
そこから座敷のあちこちで笑いが起きました。
おじさんもさすがに言い過ぎたと思ったのか、少し顔を赤くしながら、
「いやいや、冗談だって。そんな真面目に取るなよ」
と手を振りました。
すると妻も、それ以上は何も言わず、
「そうですよね。冗談ならよかったです」
とだけ返して、また箸を取りました。
私もそこでようやく肩の力が抜けました。
あの場で私が強く言い返していたら、もしかすると少し険悪になっていたかもしれません。妻が感情的になりすぎず、それでも嫌なことは嫌だとはっきり伝えてくれたことで、話はそこで終わりました。
その後も、そのおじさんとは法事などで普通に顔を合わせています。挨拶もしますし、席が近ければ世間話もします。
ただ、少なくとも私の前で、あの時計について何か言われることはなくなりました。
そして私は今も、妻にもらったその時計を使っています。
あの日のことを思い出すたび、時計そのもの以上に、隣で迷わず口を開いてくれた妻のことが少し頼もしく感じられるのです。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














