「また鳴ってるね。今日も寝にくそうだな」向かいの家から響く音楽の音。だが、自治会の回覧板で状況が一変
行事の連絡に混じっていた、別の紙
この住宅地に長く住んでいます。夜になれば、通りを歩く人もほとんどいません。
向かいの家だけが借家で、何年かごとに住む人が入れ替わっていました。
春に新しいご家族が越してきたときも、引っ越しの日に挨拶をしただけでした。
しばらくすると、向かいの二階から、夜遅くまで音楽が聞こえるようになりました。窓を閉めても、低い音だけは床や壁を伝うように残ります。
「また鳴ってるね。今日も寝にくそうだな」
妻とそんな話をする夜が続きました。
一度は直接伝えようと玄関まで出たこともあります。しかし、向かいの借家のすぐ隣には、うちよりずっと近い家があります。そこまで聞こえているなら、その家の方がもっと困っているかもしれない。そう考えると、私だけが出ていくのもためらわれました。
結局、誰かが何か言うかもしれないと思ったまま、夏になりました。
そのころ、自治会の回覧板が回ってきました。祭りの日取りや集積所の当番など、いつもの連絡に混じって、一枚だけ見慣れない紙がとじてあります。
「夜間の生活音について、床に響く音もご配慮ください」
その下には、夏場は窓を開ける機会も多く、音が周囲へ伝わりやすくなるため気をつけましょう、という内容が書かれていました。
家の名前も、誰かを責める言葉もありません。
私は自分の欄に判をつき、そのまま次の家へ回しました。
数日後、夜の音が聞こえなくなった
それから数日たった夜のことです。
布団に入ってから、私はいつも聞こえていた音がしないことに気づきました。向かいの二階はすでに暗くなっています。
次の日も、その次の日も、夜遅くまで音楽が続くことはありませんでした。
「静かになったね」
妻に言われて、私も窓の外を見ました。
向かいの家に直接何かを言ったわけではありません。向こうから謝りに来たわけでもありません。それでも、それまで続いていた音は聞こえなくなりました。
しばらくして、向かいのご主人と道で顔を合わせました。
「おはようございます」
それまでなら会釈だけで終わることが多かったのですが、その日は向こうから声をかけてくれました。私も挨拶を返し、そのまま少しだけ天気の話をしました。
さらに何日かたったころ、向かいの借家の隣に住む方と家の前で話す機会がありました。
そのとき、相手が何気なく言いました。
「この前の生活音の紙、うちから自治会に相談したんですよ」
夜の音が気になっていたものの、直接言いに行けば関係が悪くなるかもしれない。それで自治会に相談し、特定の家を名指しせず、地域全体への注意として回してもらったそうです。
「大ごとにしたかったわけじゃないですから」
そう言われて、私はようやく一枚の紙が回ってきた理由を知りました。
その後も、向かいの家と特別親しくなったわけではありません。ただ、道で会えば挨拶をし、ときどき短く話すようになりました。子どもさんが二人いることも、そうした会話の中で知りました。
私はずっと、「直接言いに行くか、黙って我慢するか」の二つしかないと思っていました。
けれど、誰かを名指しせず、間に自治会を入れて伝える方法もあったのです。
夏になると今でも、あの回覧板に挟まれていた一枚を思い出します。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














