「下手くそ、うるさいわ」実家で弾いていたピアノ。数年後、実家に戻った私が隣人から言われた事実とは
塀の向こうから聞こえた、きつい一言
若いころ、実家の居間にピアノがあり、私は毎日のように練習していました。
ただ、決して上手ではありません。同じところで指が止まり、そのたびに最初から弾き直していました。
夏は窓を開けていたので、その音は外までかなり聞こえていたのだと思います。
ある日の午後、何度目かに同じところでつかえて手を止めたとき、塀の向こうから声がしました。
「下手くそ、うるさいわ。もっとゆっくり弾き」
隣に住む年配の女性でした。もともとぶっきらぼうな話し方をする方でしたが、そのときの私は「そんなに迷惑だったんだ」としか受け取れませんでした。
その日はすぐにピアノの蓋を閉じました。
翌日からは窓も閉めるようになり、やがてピアノに向かう時間そのものが減っていきました。
隣の方と道で会っても、なんとなく顔を合わせづらくなり、こちらから距離を取るようになりました。その後、私は実家を出ました。
何年も経って、同じ曲の話をされた
何年かして実家へ戻った日のことです。庭で洗濯物を干していると、塀の向こうから声をかけられました。
すぐに隣の方だと分かりましたが、その声は昔よりずいぶん細くなっていました。
「あのころの曲、もう弾かへんの。うるさいくらいでよかったのに」
思いがけない言葉に、私は手を止めました。
「台所仕事しながら、毎日聞いてたんよ。同じとこでつかえて、また最初から弾いてな」
私が何度も失敗していたところまで覚えていたことに驚きました。
「もうちょっとで弾けそうやったのに、急に聞こえんようになったから」
そこで初めて、あの日の言葉を思い出しました。
私はずっと、ただ「うるさい」と怒られたのだと思っていました。もちろん、あの言い方がきつかったことに変わりはありません。
それでも、隣の方がそれ以前から毎日のように私のピアノを聞いていたことは、そのときまで知りませんでした。
「そうだったんですね」
私がそう返すと、隣の方は「懐かしいわ」と笑って家の中へ戻っていきました。
その日の午後、久しぶりにピアノの蓋を開けました。指は昔のようには動かず、覚えているはずの曲でも途中で止まります。
それでも、何度か弾き直しているうちに、昔と同じところでつかえてしまいました。思わず一人で笑いました。
窓は開いたままでした。以前ならすぐに閉めていたと思います。でもその日は、そのままもう一度、最初から弾いてみることにしました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














