「ごめん。生活費がちょっと足りなくて」母が黙って下ろした僕の貯金。だが、2度目の発覚で父が動いた
月末ごとに減っていた給料の口座
僕は三十代の会社員で、これは実家を出る前の話になる。当時は毎月の給料を、学生のころに作った口座にそのまま貯めていた。
学生時代、母にお金を下ろしてもらうこともあったため、母も暗証番号を知っていた。通帳とカードも、家族が使う茶の間の棚に置いたままだった。
ある晩、何気なく通帳を確認していて手が止まった。自分では下ろしていない引き出しが、月末に入っていたのだ。
ちょうど風呂から上がってきた母に、僕は通帳を見せた。
「母さん、これ何か知ってる?」
母は通帳を見ると、少し黙ってから目を伏せた。
「……ごめん。生活費がちょっと足りなくて」
僕は驚いたものの、家のために必要だったのなら、お金を出すこと自体が嫌だったわけではない。
「だったら先に言ってよ。一言言ってくれれば断らないのに」
「うん……ごめんね。次からちゃんと言う」
そう言われ、その日はそれ以上責めなかった。
ところが翌々月、また覚えのない引き出しがあった。
「母さん、これ……また?」
母は困ったような顔をした。
「今月もちょっと足りなくなって……」
「前にも言ったよね。一言言ってくれれば断らないのに。勝手に下ろされるのが嫌なんだよ」
「……うん。本当にごめん」
二度目も同じやり取りになり、僕は口で注意するだけでは変わらないと思った。
父が冷蔵庫の横に貼った一枚の紙
その週末、僕は半年分の明細を確認し、自分では下ろしていない行に鉛筆で丸をつけた。
夕飯のあと、通帳を食卓に置き、父と母の前で話をした。
「家にお金を入れるのはいいんだ。でも、知らないうちに減ってるのは嫌だよ。毎月いくら必要なのか、ちゃんと決めない?」
父は黙って通帳を見たあと、母に聞いた。
「足りないなら、俺にも相談してくれればよかっただろ」
母はしばらく黙っていた。
「……言い出しにくくて。少しだけならと思ってしまったの」
父は怒鳴ることもなく、静かに言った。
「でも、黙って下ろすのは違うよ。これからは足りないときに話そう」
父は紙を一枚出すと、僕が毎月家に入れる金額を書いた。その横には、支払った月を記録できるよう簡単な欄も作った。
「このくらいなら無理ないか?」
「うん。それなら大丈夫」
「じゃあ、まずこれでやってみよう」
父はその紙を冷蔵庫の横に貼った。
母は紙を見つめたあと、僕に向かって小さく言った。
「ごめんね」
「もう勝手に下ろさなければ、それでいいよ」
次の月末、僕は決めた額を自分で用意して母に渡した。
「今月の分ね」
「うん、ありがとう」
母は受け取ると、冷蔵庫の横の紙にその月の記録をつけた。
それ以来、僕の知らないところで口座のお金が減ることは一度もなかった。
今は結婚して、家のお金は妻と一緒に管理している。
月末になると、妻が家計の表を見ながら聞いてくる。
「今月の分、もう書いた?」
「あ、まだだった。今書くよ」
そんなやり取りをするたびに、実家の冷蔵庫の横に貼られていた、あの一枚の紙をふと思い出す。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














