「やっぱりこっちで」現場の意見を聞かずに、突如方針を変える責任者。徹夜の毎日で気づいてしまったこと
夜のオフィスで、設計図を組み直す日々
開発の現場では、要件が固まってから動くのが理想だ。
けれど現実は、走りながら作ることのほうがずっと多い。
私はその案件で、メイン担当として図面とコードの両方を抱えていた。
仕様の変更依頼は、上流工程からほぼ毎週飛んできた。
画面のレイアウト、項目の追加、計算ロジックの差し替え。
一つひとつは小さな修正でも、積み重ねれば構造の根が揺れる。
テストの工数も、依存している別画面の挙動も、毎回ゼロから見直さないと整合が取れなくなる。
「現場の判断はあとで聞きます」
調整会議で、上流工程の担当者から冷静にそう告げられた。
決まってから来るのではなく、決まりを動かすために来ているような印象。
それでも私は、影響範囲を洗い直しては設計図を組み直し続けた。技術者として、形にする責任があると思っていた。
毎晩、同じチームのメンバーと黙々とディスプレイに向かい、最後の一行までレビューしてから帰る。週末も、頭の片隅でロジックを回している自分がいた。
最後の伝言で、現場の手が止まる
リリース直前、社内の検証も通り、関係部署への連絡もほぼ済んだ頃。
プロジェクトリーダーが、申し訳なさそうな顔で席までやってきた。上流工程の責任者から、たった一行の伝言が届いていた。
「やっぱりこっちで」
差し出された紙には、これまで現場で組み上げてきた仕様とは大きく違う方針が書かれていた。
私の手は、キーボードの上で止まったまま動かない。指先が動かないというより、動かす意味を一瞬だけ見失っていた。
同じチームの若手が、隣で小さく息をついた。
「これ、間に合うんですか」
間に合わせるしかない。声には出さず頷いた。
怒りより先に、肩から力が抜けていく感覚だった。
一発の伝言で、何週間ぶんの工夫が静かに上書きされる。納品はいずれ終わる。終わってしまえば、形のあるものだけが残り、現場で吸収した負担は記録にも残らない。
胸に残るのは、やりがいでも達成感でもなく、答えのないモヤモヤ。
次の案件が始まる頃には、また同じ構図で同じ夜が来るのだろうかと、薄く想像する自分がいた。
リーダーが帰り際に「ありがとう」と短く言って去ったその背中も、どこか申し訳なさそうな足取りに見えた。
深夜の窓に映った自分の顔は、技術者としての達成感よりも、伝言ひとつで作業の意味が変わる現場への、低い疲労を映していた。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














