「ない!どこにもない!」お布施の用意を忘れた義母。読経中の信じられない行動に絶句
線香の匂いの中で迎える誕生日
仏間に正座して、私は自分の誕生日をやり過ごしていた。
結婚していた頃、私の誕生日は夫の祖母の命日と同じ日だった。
義実家は隣にあり、毎年その日になるとお坊さんが訪れて読経が営まれる。
産後で家にいた私は、毎年その場に顔を出すのが暗黙のならいになっていた。
本当はケーキの一つも食べたい日に、線香の匂いの中で手を合わせる。若干のモヤモヤを飲み込みながら、それでも波風を立てたくなくて黙って座っていた。義母はお坊さんに丁寧に挨拶をし、その朝までは何の問題もなかった。
お坊さんの真横から伸びてきた腕
異変は読経が始まってから起きた。お経が響き始めて少しすると、仏壇の前の義母がそわそわし始めた。そして家中の引き出しを次々と開け、何かを探し回り始めたのだ。お経の最中だというのに、戸棚や収納がバタバタと音を立てる。
「ない!どこにもない!」
お布施の用意を忘れていたらしい。台所の戸棚、廊下の棚、リビングの引き出しと、バタンバタンという音が朗々と響くお経にかぶさって仏間に広がる。
義母は読経が終わりかけた頃にようやく封筒へ筆ペンを走らせ、信じられない行動に出た。読経中のお坊さんの真横から腕を最大限に伸ばし、肩越しにお布施を置いたのだ。
お坊さんの背中の脇から白い封筒だけがにゅっと差し出される。私は正座したまま、お坊さんに申し訳ない気持ちと恥ずかしさで、目のやり場を完全に失っていた。
解放されたいま思うこと
読経のあと、お茶を出す場面でも義母の様子は変わらなかった。
「お布施の用意もしてなくてすいません〜」
語尾を伸ばしてヘラヘラと笑う義母に、お坊さんは穏やかに応じてくれた。けれど隣の嫁として同席している私のほうが、恥ずかしさで身を縮めていた。
こんな調子のネタが、義実家には他にも山ほどあった。誕生日のたびに線香と家探しの音がよみがえる年月が、ずっと続いた。いまはもうその家を出ている。あの仏間の光景を思い出すたびに、離婚してよかったと静かに思えるのだ。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














