「喪服を一着、レンタルしといてくれよ」実母の葬儀なのに、他人事のように振る舞う兄。だが、父の一喝で状況が一変
喪服を借りてくれという兄
母の葬儀の支度に追われていた私の携帯が、何度も鳴った。
遠方から帰ってくる兄からだった。
「喪服を一着、レンタルしといてくれよ。ジャケットとズボンな」
実の母を送る席に、喪服をレンタルで間に合わせる。しかもそれを、葬儀でばたばたしている私に手配させようとする。耳を疑った。
「そんなの自分で手配してよ。私、今それどころじゃないの」
突き放すように言うと、兄はようやく自分で店に連絡したらしい。
それでも、サイズはこれでいいか、店はどこがいいかと、確認の電話を何度もよこしてきた。受付や弔問の対応に追われている私に、兄は最後まで甘えるばかりだった。
「忙しいのは分かるけど、ちょっとくらい手伝ってくれてもいいだろ」
その言葉に、私はぐっと言葉を飲み込んだ。母を亡くしたばかりなのは、兄も同じはずなのに。
代金を残して帰った兄
葬儀が終わって数日後、レンタル店からの請求が実家に届いた。兄は借りた喪服の代金を払わないまま、自分の家へ帰ってしまっていたのだ。
「お兄ちゃん、レンタル代そのままだよ。どうするの」
「えっ、あれって誰かが払っといてくれるんじゃないのか」
当然のように言う兄に、私は二の句が継げなかった。やり取りを横で聞いていた父が、受話器を取って、自分で兄にかけ直した。
「実母を送る喪服代くらい自分で出せ」
低く、しかしきっぱりとした声だった。普段は穏やかな父が、これだけは譲らないという調子で言い切った。
一筆に込められた兄の言い分
兄は電話口で、しばらく言い淀んでいたという。
「でも、母さんの葬式だぞ」
「葬式だからこそ、自分のけじめは自分でつけろ」
父がそう返すと、兄はもう何も言えなかったらしい。長く家族を支えてきた父の言葉は、それだけ重かった。電話の向こうで、兄の声がしぼんでいくのが受話器越しにも伝わってきた。
後日、兄から現金書留が届いた。
代金はきちんと入っていたが、一緒に短い書き置きがあった。レンタル代まで請求されたのが、よほど不満だったらしい。
「払えとは思わなかった」
そう走り書きされた紙を見て、父は黙って首を振った。それでも、自分の分を自分で払った。それだけで十分だった。
「あいつも、これで一つ大人になったろう」
母を見送ったあの日、私と父が今もすっきりしないのは、お金そのものではなかった。それでも父の一言で、人任せだった兄がきちんとけじめをつけた。その後の集まりで、兄はどこか決まり悪そうに、前ほど大きな口を叩かなくなっていた。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














