「失敗談を言う必要はないよな」酔いながら始まった結婚式のスピーチ。白けた空気を、司会の機転が救った
和やかだったはずの席
友人の結婚披露宴に出席したときのことです。
会場は笑い声にあふれ、料理も酒も進んで、誰もが幸せそうな顔をしていました。
私も旧友たちとの再会に、すっかり上機嫌になっていたのです。
宴もなかばを過ぎ、来賓のスピーチが始まりました。
新郎の人柄をたたえる言葉が続き、会場はいっそうあたたかな空気に満たされていきます。
ところが、ある一人がマイクの前に立ったあたりから、その空気が少しずつ変わり始めたのです。
白けていく会場
壇上に立ったのは、新郎の職場で上の立場にあるという年配の男性でした。
片手にグラスを持ったまま、いかにも気持ちよさそうに語り出したのです。
「1杯やりながら、話し始めた上役」
その口から出てきたのは、祝いの言葉ではなく、新郎の会社での失敗談ばかりでした。
取引先でのしくじりや、うっかりミスの数々を、本人は面白いつもりで得々と話し続けます。
けれど、どの話も笑うに笑えない際どい内容で、会場のあちこちから乾いた愛想笑いがもれるだけでした。
(失敗談を言う必要はないよな)
隣のテーブルの年配の方までもが、居心地悪そうに手元へ目を落としています。
祝いの席には似合わない、重たい空気が漂い始めました。私も、どんな顔をしていいのか分からなくなったのです。
立場が上の人だけに、誰も途中で止められません。
新郎は困り顔を隠せず、新婦のご両親も気まずそうにうつむいています。華やかだった席が、みるみる白けていくのが分かりました。
場を救った機転
張りつめた空気を破ったのは、司会を務めていた女性でした。
話の切れ目を待っていたように、にこやかにマイクへ寄り添ったのです。
「あたたかいエールを、どうもありがとうございました」
その一言で、上役の長話は角も立てずに締めくくられました。
司会はすかさず、新郎新婦のなれそめへと話題を移し、会場の視線を主役の二人へと戻していったのです。
凍りかけていた空気が、うそのようにほどけていきました。あちこちから温かい拍手がわき起こり、祝いの場が息を吹き返します。当の上役も、機嫌よさそうに席へ戻っていきました。
誰ひとり傷つけずに、乱れた流れをすっと整えてしまう。あの一瞬のさばきに、私はただ舌を巻きました。場を仕切る人の力とは、これほどのものかと思い知らされた一日だったのです。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














