「遅いな。こっちは急いでいるんだよ」強い口調の客に新人が困惑。だが、店長が前に出て変わった店内の空気
新人の手が、だんだん止まっていった
数年前に働いていたカフェでの話です。土曜日の昼前、店内が混みはじめる時間に、レジの前で少し大きな声がしました。
レジに立っていたのは、その週に入ったばかりの新人でした。並んでいた中年の男性が、注文の途中で言いました。
「遅いな。こっちは急いでいるんだよ」
私は少し離れた場所でドリンクを作っていました。新人はまだレジの操作に慣れておらず、間違えないよう画面を確認しながら注文を入力していました。
急かされたことで、余計に焦ってしまったのでしょう。さっきまで動いていた指が、何度か止まるようになりました。
それでも注文を終え、しばらくして商品をお渡ししました。
ところが男性はカップをひと口飲むと、すぐにカウンターへ戻ってきました。
「これ、ぬるいんだけど。作り直して」
新人は「申し訳ありません」と答えましたが、その先をどうすればいいのか迷ったように立ち止まりました。
私もすぐにレジへ入ろうかと思いました。ただ、注文が立て込んでいて、ドリンク作りも止められない時間でした。
店長が引き取ったのは、苦情への対応だけだった
そのとき、奥にいた店長がやり取りに気づいて出てきました。
男性の前まで来ると、落ち着いた声で言いました。
「申し訳ありません。作り直しは私が対応します」
それから新人に向かって、短く続けました。
「レジはそのまま続けて」
店長は男性からカップを受け取りました。
「少しお時間をいただきます。できましたら番号でお呼びします」
男性はまだ少し不満そうでしたが、それ以上は何も言わず、席へ戻っていきました。
止まっていた列も、少しずつ動きはじめました。
新人の手はまだ少し震えていましたが、次のお客さんに「お待たせしました」と声をかけ、注文を取り始めました。
すると、そのお客さんがレジの画面を見ながら穏やかに言いました。
「大丈夫ですよ。ゆっくりで」
誰か一人に抱えさせないということ
その一言で何もかも解決したわけではありません。それでも、張りつめていた店内の空気は少しずつ元に戻っていきました。
カップを置く音や、お客さん同士の会話もまた聞こえるようになりました。
その日の休憩中、店長は新人に言いました。
「さっきの注文、入力は間違ってなかったよ」
新人は少しだけ安心したような顔をして、「はい」と答えていました。
店長は男性と言い争うことも、新人をその場から外すこともしませんでした。苦情への対応だけを自分で引き取り、新人にはいつもの仕事を続けさせました。
接客をしていると、強い言葉を向けられることがあります。そんなとき、その人一人にすべてを抱えさせないだけでも違うのだと、私はあの日の店長を見て感じました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














