「やっと直接お会いできましたね」50回オンラインで話した担当者。初対面で感じた、近すぎる距離に思わず戸惑った
画面越しでは、少し親しみやすい担当者だった
その会社と契約して一年になる。担当のマネージャーとは、打ち合わせや雑談を合わせて50回ほどオンラインで顔を合わせていた。
私は六十を過ぎていて、相手は20歳ほど年下。彼女はいつも言葉を選びながら話す人だった。
原稿の修正を頼むときには理由を説明し、こちらの考えも最後まで聞いてくれる。
私は以前、同じような仕事をしていたこともあり、その丁寧さには何度か感心した。
「昔のお仕事のお話も、また聞かせてください」
打ち合わせの終わりに、そんな雑談をすることもあった。
私は単純に、仕事相手として興味を持ってくれているのだと思っていた。
初めて直接会うと、思っていたより距離が近かった
初めて直接顔を合わせたのは、受注者4人を集めた食事会だった。
座敷に入ると、それぞれの席に名札が置かれていた。私は自分の場所を見つけて腰を下ろした。
しばらくして彼女も隣に座った。
「やっと直接お会いできましたね」
画面で何度も話していたため、最初から会話は弾んだ。ただ、話している途中で彼女が私の腕に軽く手を添えることが何度かあった。
最初は親しみを表しているのだろうと思ったが、回数が重なると少し気になった。
私は身体を少し離しながら、笑って話を続けた。
すると彼女も気づいたのか、その後は腕に触れることはなくなった。
帰り際のハグに、どう反応すればいいのか分からなかった
食事会が終わり、全員で店の前に出た。
それぞれが「お疲れさまでした」と言いながら帰ろうとしたとき、彼女が私のところへ来た。
「今日は本当にうれしかったです」
そう言った直後、彼女は私に抱きついた。
ほんの短い時間だったが、私は驚いて身体を固くしてしまった。
周りにはほかの受注者もいる。彼女はすぐに離れ、何事もなかったようにほかの人にも挨拶をしていた。
私はその場では何も言えなかった。
翌日、同じ案件に関わっている年下の男性に電話をかけた。
「昨日の帰り際のこと、見えていましたか」
少し間があってから、彼は答えた。
「はい。見えていました」
「私も、どう反応すればいいのか分からなくて」
「たぶん、みんな同じだったと思います」
仕事を依頼してくれている側の人でもある。彼もその場で何か言うべきか迷ったという。
電話を切ったあと、私は食事会での出来事を思い返した。
オンラインでは気にならなかった親しさが、直接会ったことで急に近く感じられただけなのかもしれない。
相手がどんなつもりだったのかは、私には分からなかった。
翌週、画面の中ではいつもの担当者に戻っていた
翌週の打ち合わせは、いつもの時間に始まった。
画面の中の彼女は背筋を伸ばし、いつもの調子で資料を開いた。
「先週の原稿ですが、直しは3か所です。あとはこのままで大丈夫です」
食事会について触れることはなかった。
私も仕事の話だけをして、打ち合わせを終えた。
「では、また来週お願いします」
画面が閉じると、部屋が急に静かになった。
50回近く話してきた相手なのに、画面越しで知っていた姿と、実際に会ったときの距離感は同じではなかった。
仕事上の関係はそれまで通り続いている。ただ、その日から私は、親しさと仕事の距離は別のものとして考えるようになった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














