「小さい子がいるから、走らないでね」我が子の周りで全力で走る子供たち。だが、年配の人の一言で状況が一変
板の上を走る音が、近づいてきた
下の子が保育園に通っていたころ、夕方になると近所の遊び場へ連れていくのが決まりだった。
木の板を渡した、アスレチックのような大きな遊具がひとつある。その日もうちの子は、いちばん低い段を行ったり来たりしていた。
先に聞こえたのは、何人もの足音だった。小学校低学年くらいの子が5人、外から走ってきて、そのまま梯子を上っていった。
「こっちから行けるよ!」
「早く、早く!」
5人は渡り板の上まで上がると、そのまま端から端へ走り始めた。
板が鳴るたび、下から見ていた私はひやりとした。
板の幅は狭く、うちの子は真ん中あたりで立ち止まったまま動けなくなっていた。
「ごめんね、ちょっと待って。小さい子がいるから、走らないでね」
下から声をかけたが、遊びに夢中なのか、足音は止まらなかった。
「危ないから、その子の横を走り抜けるのはやめてね」
もう一度声をかけた直後、子どもたちはうちの子のすぐ横を次々に通っていった。
「もう降りよう。おいで」
私は手を伸ばし、子どもを抱えるようにして遊具から下ろした。
「やだ。まだやりたかった…」
「うん。そうだよね。でも、ちょっとだけ待とう」
子どもは納得できない顔のまま、私の手を握った。
そのとき、遊び場の横の通路から、この時間によく見かける年配の人が歩いてきた。
ちょうど私が子どもを下ろすところだったので、遊具の上を走る5人と私たちを交互に見ていた。
近くにはほかにも大人がいたが、誰が5人の保護者なのかは分からなかった。
私も、自分の子を遊具から離すだけで精いっぱいだった。
遊具の前が、静かになった
年配の人は遊具の前まで来ると、上を見上げた。怒鳴るわけではなく、子どもたちに届くくらいの声で呼びかけた。
「おーい、ちょっと待とうか。小さい子もいるから、順番に使おうね」
何人かが足を止めた。
「えー、でも今来たばっかりだよ」
ひとりが不満そうに言うと、年配の人は「そうだよね」とうなずいた。
「遊びたいよね。でも、この子が先に使ってたでしょう。渡り終わるまでは、順番に使おうね」
子どもたちは私の隣にいるうちの子を見た。
「まだやるの?」
聞かれたうちの子は、私の手を握ったまま小さく答えた。
「やる……」
年配の人は少し笑った。
「じゃあ、もうちょっとだけ待ってあげよう。終わったらみんなで遊べるから。順番に使おうね」
3度目の言葉のあと、先頭にいた子が「じゃあ先にやっていいよ」と言って梯子を下りた。ほかの子も少し遅れて続き、遊具の下へ集まった。
きれいに一列になったわけではない。「次、俺ね」「その次ぼく」と話しながら、梯子の近くで待っている。それでも、さっきまで続いていた板を蹴るような足音は止まった。
私は子どもの顔をのぞきこんだ。
「もう一回、行ってみる?」
「うん」
子どもはもう一度梯子に手をかけた。今度は途中で立ち止まらず、自分の速さでゆっくり板を渡っていった。
最後まで渡ると、待っていた子のひとりがすぐに梯子へ向かった。
「次、ぼく!」
年配の人はその様子を見て「ありがとね」と声をかけると、そのまま通路の先へ歩いていった。
遊具の前から大きな足音が消え、聞こえるのは順番を待つ子どもたちの話し声だけになっていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














