「今は無理だって」生活費は出せないのに旅行には行く彼。だが、合わない価値観に同居をやめた結果
飲めないビールの機械が、玄関に届いた
社会人になって一年目の秋、私の部屋には恋人の荷物のほうが多くなっていた。
彼は大学四年生で、就職活動が落ち着くまでは生活費を出す余裕がないと言っていた。家賃も食費も光熱費も、ほとんど私が払っていた。
「仕事が決まったらちゃんとするから」
そう言われれば、あと少しだけだと思えた。
ある日、玄関に大きな箱が届いた。彼が嬉しそうに開けると、中から出てきたのは月額で借りるタイプのビールの機械だった。
「え、これ頼んだの?」
「うん。家で飲めたらいいじゃん」
「でも私、ビール飲めないよ」
「俺が飲むからいいだろ。そんな高くないし」
申し込みのとき、「今だけ立て替えて」と頼まれ、支払い先には私の口座を使った。すぐに返してもらえるつもりだったが、そのまま月々の引き落としが続いた。
翌年の春、彼は大学を卒業した。それでも生活はほとんど変わらなかった。単発の仕事に行く日はあっても、生活費の話になると「仕事が決まってから」と言われた。
さらに数か月たったころ、彼から友達との旅行に誘われた。
「一緒に行こうよ」
「行きたいけど、二人ぶん出すのは無理だよ」
すると彼は少し考えてから言った。
「じゃあ俺、自分のぶんは出すよ」
私は何も言えなかった。
生活費には出せないと言っていたお金が、旅行には出せる。そのことが、思っていた以上に胸に残った。
責めるより先に、決めたこと
彼が旅行から帰ってきた夜、スマートフォンに写真が3枚届いた。海と、宿の食卓と、友達と並んで笑っている写真だった。
私は台所でその月の明細を見ていた。
怒鳴りたいわけではなかった。ただ、このまま黙って払うのはもう無理だと思った。
「ねえ。これから生活費、半分ずつにしよう」
彼は困ったように眉を寄せた。
「今は無理だって。仕事だって探してるんだから」
「うん。でも、半分ずつにしよう」
「すぐ決まるわけじゃないだろ」
私はそれ以上言わなかった。
二度伝えて、自分の中ではもう答えが出ていた。
翌週、一緒に暮らすのをやめた。彼の荷物を運ぶ日を決め、合鍵も返してもらった。私の口座から支払っていたビールの機械も解約し、返却した。
数日後、姉に電話すると、最後まで黙って話を聞いてくれた。
「それで、何て言ったの?」
「生活費、半分ずつにしようって。二回言った」
「それだけ?」
「うん。もう説明するのも疲れちゃって」
姉は少し黙ったあと、ふっと笑った。
「よく一年近く払ったね。もう、自分のぶんだけでいいんだよ」
その言葉を聞いて、ようやく肩の力が抜けた。
台所の隅には、ビールの機械がなくなったぶんだけ空いた場所があった。私はそこに、買ったばかりの小さな鍋を置いた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














